孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「ええ。そうですね。魔王が持っているアイテムの……ガラス玉ってご存知かしら? 離れた場所でもうつるのよ」

 魔王アルトがそれを持っているかは知らないけど、お伽話によく出てくるガラス玉を思い出して適当に言った。

「お姉様の無残な姿がうつるのを楽しみにしていますね」

「悪かった、悪かったわよ! ほら私のオイルを貸してあげるから。まだ焦げている髪の毛に塗りなさい」

「オイルを塗ると手が沁みますの、お姉様がヒールで私の手を踏みつぶしたから」

「な……」

「傷だらけの手の持つ花嫁を魔王様はどう思うかしら……遠く離れた場所から、お姉様のこと見守っていますわね」

「ご、ごめんなさい! 謝るわ、今までのことを! ねえこれでいいでしょう。お願い」

 サンドラは見たこともない必死の形相になっている。最後の夜にいい物が見れた。

「ふふ。因果応報という言葉をお姉様に最後に差し上げますね。そうだ、親友のリイラのことはこれからもガラス玉で見守っていますから。お姉様も優しくしてあげてね」

「も、もちろんよ。あなたの代わりに優しく接するわ!」

「お姉様の優しさって食べ残しをあげることかしら……?」

「そんなまさか! ちがう、違うわよ」

「ではリイラには近寄らないでくださいね。そういうのも優しさですから」

 王子とリイラの恋は順調に進んでいる。最後のひと月で確認したかったものはテストの結果だ。王子ルートに入るにはテストで三十位以内に入らなくてはいけないから。リイラの成績は十六位で安堵した。
 それならもうサンドラの恋を盛り上げるスパイスは必要ないだろう。この女のスパイスは物理的に痛いのよ!

「私の幸せもお祈りくださいね。私の機嫌が悪くなってしまったら、お姉様を八つ裂きにしてとうっかりおねだりしてしまうかもしれませんわ。なんたって魔王の妻になるんですからね、ホホ」

「そうね、ホホホ……」

 サンドラが青い顔でひきつったのを見て、私は微笑んだ。今夜はぐっすり眠れそうだ。

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