孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「それでアイノが犠牲になったらどうする。あの王子は流れる血の多さを考えてアイノに危険な役割をさせようとしている。リイラ・カタイストもアイノも魔の森にいるままなら処刑されることはない。その後のクーデターなど知ったことか」

 広場での処刑を免れても、どちらにせよ森への突入命令は下る。臨時魔法士たちが国に反旗を翻したとしても森は主戦場になり、魔物たちの被害は免れない。王子側の都合だけでなく魔物を守るためでもあるとアルト様も納得していたけれど『夜』の彼は素直な弱った気持ちがさらけ出してくれる。

「そうですね、ちょっと怖いですけど。……でも私アルト様と行きたい場所がたくさんあるんです」

 アルト様を力を込めて抱きしめ返した。

「マティアス王子が魔人も普通に暮らせる世界と言ったとき、ちょっと夢見てしまったんです。この森で過ごす穏やかな日々も私は大好きなんですけど、海を見たりとか、街で美味しいものを食べたりだとか。アルト様と過ごす時間を」
「そうだな」

 しばらくアルト様は私を抱きしめてから私の顎に手をかける。魔力の受け渡しだ、そう思ってもいつでも胸はときめいて甘くしびれる。

「アイノがいなくなることが一番怖い」
「いなくなりませんよ」
「俺に怖いという感情があると思わなかった」
「ふふ」

 唇を離すたびにアルト様は不安を吐露する。こんなことを思うのはよくないと思うけれど、アルト様の不安が嬉しくもあった。
 魔力を受け渡して、かわりに愛をもらって心が落ち着いてくる。不安を受け付けてキスで返す。くすぶっていた私の不安も溶かされていった。
< 189 / 231 >

この作品をシェア

pagetop