孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 民衆は見えないけれど、皆が口々に叫ぶ声が聞こえてくる。簡単な防護魔法ならきっとほとんどの人が発動できただろう。

「騎士団に伝えろ、この広場にいる人間を外に一歩も出すなと」
「かしこまりました。配置変更を指示してまいります」

 一人の臨時魔法士が走ってこの場を去っていく。……うん、騎士団も排除できる。父に押さえつけられながら私は国王に向かって微笑む。

「処刑できるならしてみなさいよ!」
「魔人に毒された魔女め……!」

 国王は憎しげに私を睨んでから、処刑の合図を送るべく自分の隣にいる緑のケープをつけた魔法士に目線を向けた。魔法士は背が高く国王が見上げると――

「初めまして。イルマル王。――魔の森のアルトと申します」

 そう言ってアルト様は、国王の首に長い指を添わせた。

「俺の花嫁を返せ」

 美して低い声がはっきりと聞こえる。

「おい……!」

 国王が唖然として周りを見渡すと臨時魔法士たちがぴったりと各大臣の隣をつけていて、すぐに魔法を発動できるように首元に指を添えている。

「ど、どういうことだ……お前ら! 裏切ったか!」
「騎士団は!?」
「民の元だ!」
「ば、バルコニーの下にも兵が待機していたはずです、合図を……!」

 一人の大臣が叫ぶと同時に、十名程の魔法士たちが下から飛び上がってきた。

「助かった……!」
「お前たち! すぐに攻撃を……!」

 大臣たちが慌てて指示するけれど。魔法士たちが指を向ける先は、もちろん大臣たちだ。

「どういうことだ」

 他の大臣と同様に捕らえられた父が感情のない声で呟いている。
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