孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 女性に気を取られていた国王たちは私に意識を戻した。命令された臨時魔法士やなりふり構わない大臣が私の元に向かってくる。

「皆さん『レンド・イルース』と叫んでみてください! 自分を守るイメージをしてみて! レンド・イルース!」

 私が叫ぶと黄色いモヤのような光が私を包んだ。初心者でもできる簡易防御魔法だ。そのまま私はもう一度「フロータ・ルイロー」と唱えて空中を移動する。

「レンド・イルース!」

 一人の男性――民に紛れた臨時魔法士だ――が叫ぶと、彼の周りにも光のモヤがかかるのが見えた。

「これは防御魔法じゃないか!? なぜ貴族でもない俺に!?」

 別の臨時魔法士も同じ防護魔法を発動させてからそう叫んでいる。

「レンド・イルース!」見様見真似で子供も叫んだ。弱弱しいけど光が子供を包んでいく。それを見た中年男性も叫んで……そうして光は連鎖するように、民に広がっていく。

「魔女が! やめろ!」

 光を見つめていた私を、空中まで移動してきた父が捕らえた。父は私を抱え込んだままバルコニーに飛び込み転がった。
 私のことは見て見ぬふりだったというのに、国のことにはここまで必死になれるのか。子供の頃から抱きしめられたことさえほとんどなかったのに、うんざりするほど抱きしめやがって!

「魔人はもう来ないのでしょう! 処刑しましょう!」

 父は国王に向かってつばをばしながら叫ぶ。娘を処刑することで自らの地位になんとか守りたいのかもしれない。
 国王も真剣な顔で頷いた。
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