孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 アルト様が脇腹に手を差し出すと優しい黄色の光があらわれて包み込む。ほんの少しだけ熱が軽くなったと思ったけれど、それは一瞬のことだった。おなかを見おろさなくても紫の煙がモクモクと上がってみえる。
 ショコラも前足をかざして何か魔法をかけてくれているのだけど、紫は消えないまま私にまとわりついているようだ。

「くそっ……これは呪いか?」
「人間側も魔人を確実に殺す武器を用意していたのね。これ魔力に入り込んで、命と魔力をすごい勢いで消していく。魔力が多い者こそ致命傷になる呪いだわ」
「ショコラ。今、アイノから魔力をもらったらどうなる」
「……そうか、その方法があったわね。瘴気の対象を変えられるかも」

 二人が話している内容があまりいいものに思えなくて私は首を振る。

「アイノ、今助けてやるから」
「だいじょう、ぶです」
「心配することはない。だからこっちを見てくれ」

 じっと見つめられた瞳は涙に濡れている。嫌な予感がじんわりと背中を這う。お腹はやっぱり燃えるように熱い。
 アルト様は私の顎に手をかけて、いつもキスをするように顔を近づけてくる。私は力を振り絞ってなんとか手で身体を押しのけて、顔をそむけた。

 むに。と、顔をそらした先で柔らかい感触がする。私にキスをしているのは……ショコラ?
 こんなかわいいおててでどこにそんな力があるのかわからないほどに、前足で顔を固定されてぎゅっと唇を押さえつけられる。じゅうじゅうと音がするように熱かったお腹が冷えていく。同時に重い頭や身体もすっきりしていく。
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