孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜


「朝だ」

 柔らかい光の中、私は目を覚ました。一番に目に入るのはアルト様の寝顔だ。光に照らされた黒髪をさらさらと撫でる。
 しっかり閉じられた瞼が嬉しい。一緒に眠るアルト様はうなされることもなく、こうして安心した顔を見せてくれる。きっとアルト様はもう悪夢を見ない。

「朝か」

 私の動きで起きてしまったのか、目をこすりながらアルト様も呟いた。

「暗黒期終わったんですかね」

 昨日夜が訪れても、アルト様に角は生えなかった。翼もかぎ爪も大きな牙もなく。瞳も穏やか青のままだった。
 もしかして、と思ってワクワクして眠りについたけど。想像していた通り、目覚めた先に朝はあった。

「朝ですねえ」

 嬉しくて何度も朝だと呟いてしまう。
 今日はきっと晴れの一日だ。窓から輝く光に浮足立って、待ちきれなくなって、アルト様を引っ張ってベッドから飛び出た。

 庭に出ると待ち望んでいた太陽がそこにあった。雲一つない爽やかな朝だった。
 プランターの前にしゃがみこむと、小さな芽がひとつ見える。昨日も雨だったから、小さな雫がついてキラキラと光っている。

「朝ねえ」

 雫だと思ったけれど、ショコラだった。小さな声が聞こえてきて「朝だねえ」と私も返した。
 そんな小さな会話が、涙が出るくらい嬉しくて。
 隣を見るとアルト様も芽を覗き込んで微笑んでいる。

「朝ごはん、食べましょうか。フレンチトースト作ります!」

 今日の元気も朝ごはんからだ。それから、せっかく晴れなのだから庭仕事をしよう。小さな幸せがいくつも待っている、そんな朝だ。
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