孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「だけど寿命は縮まる。でも、アイノと生きるためにそれほど多くの生はいらない」

 ああそういえば、魔人は人間よりずっと長生きなのだった。
 何百年か生きるのであれば、それをショコラに譲りたいと思うのはアルト様らしいかもしれない。

「それで相談なんだが」

 アルト様はそう言うと、顔を赤くして口ごもる。そして一度深く息を吸ってから話し始めた。

「俺はそこまで長生きはできなくなった」
「そうですね」
「魔物の研究は生きているうちには終わらないかもしれない」
「なるほど」
「……魔物の事が気がかりだ」
「確かに」
「今の世なら魔族が迫害されることもない」
「…………」

 回りくどいけど、これは……そういうことだろうか。
 アルト様は私から顔をそらして耳まで真っ赤だ。

「暗黒期も終わった」
「はい」
「俺と家族を作ってくれないか」

 波の音がざざと流れる中、アルト様の声はまっすぐ聞こえた。アルト様の耳は予想通り赤いけど、目をそらすことなく私に届けてくれている。
 私は思い出していた。アルト様との出会いを。
 暗黒期でもないのに、ずっと暗闇の中にいて。魔物を守るためだけに自身を生かして。ただ惰性で生きていると言った彼を。
 魔人を自分の代で終わらせたいと言っていた、アルト様を。
 そのアルト様が自分の未来を見てくれている、私と一緒の未来を。

「はい!」

 私が大きく返事をすると、アルト様は安堵したように目尻を下げて微笑んだ。
 緩やかに引き寄せられて、アルト様の腕のなかにおさまる。

「大切にする」
「もう大切にしてもらってますよ」
「そうか」

 その声が優しくて私は嬉しくて抱き寄せられた胸に顔をうずめた。
 何度も抱きしめてもらったけど一番あたたかだった。
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