孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜

・・


 アルト様が夜うまく眠れないことを知ってから。
 暗黒期に夜を一緒に過ごして、そのまま魔力を渡して疲れ果てて、そのままアルト様のベッドで眠って。そんな日々を過ごしてきたけれど。
 毎日同じベッドで眠っていたけど、私たちはそういうことになったことがない。

 だけど……ええと、さっきの感じだと。そういうこともありうるんだろうか!?

 宿に戻った私はアルト様が湯浴みをしている間、ひとり意識してしまい頭をぐるぐると巡らせていた。
 落ち着かずにベッドの上をゴロゴロ転がっていると、

「何をしている」

 呆れた声が降ってきて、私を見下ろすアルト様と目があった。

「珍しいベッドなので」
「そうか」

 アルト様は濡れた髪の毛を拭きながらベッドに腰掛ける。
 私は正座して隣りに座って、落ち着かない気持ちでアルト様を見ていると訝しげに「なんだ?」と聞かれる。

「いや、もう暗黒期の夜みたいにならないんだなと思って。羽ないな、とか思ってました」
「……暗黒期の俺のほうが良かったか?」
「い、いえ! アルト様は何でも好きです。どんなアルト様でもオーケーです!」

 今暗黒期の金色の瞳verアルト様が登場してしまったら、心臓が止まってしまう。あのアルト様はグイグイくるから心臓に悪いのだ。

「アイノ」

 低くて甘い声が私の名前を呼ぶ。見上げると目元をゆるめたアルト様がいる。

「そんなに固くならなくてもいい。急いでいない」
「へえっ」

 緊張していて喉まで固まってしまっていたのか、私の喉からは潰れた声が出た。
 その声にアルト様は小さく吹き出した。
 私の気持ちなど見透かされていたらしい。アルト様がくつくつ笑うのを見ると心も身体もほぐれてくる。こんなふうに無防備に笑ってくれるのが嬉しい。

「アイノのことを大切にしたい、と思ってる」

 拗ねたような口調で言うのは照れ隠しだ。耳が赤く染まっている。

「さっきも聞きましたよ」
「さっきとは意味合いが違う」

 照れたように顔をそらすから、アルト様の身体に自分の身を預けてみる。石鹸の香りがくすぐったくて体温は心地良い。
 アルト様の太い腕が私の身体を包み込む。もう私は怖くなかった。

「私もアルト様のこと大切ですから」

 アルト様の頬を両手で挟み込んで私から小さいキスをしてみると、私の両手首をアルト様の大きな手のひらが掴んだ。

 私の真意を確かめるようにアルト様はじっと見つめるから、伝わりますようにと願って精一杯口角を上げて頷いてみる。
 ゆっくり顔が近づいてきてもう一度唇が重なった。
 それが深まって、私の唇を奪うアルト様と目が合う。瞳の色は青のままなのに奥に熱を感じる。
 私が目を閉じるのと、まわされた腕ごと身体がベッドに着地するのは同時だった。
 ふわふわと漂う雲の海に沈むように私たちは夜に溶けていった。


・・
タイトル少し変更しました。
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