孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜


☆☆☆



「いやったーーー! このドアマット生活からおさらばだーーー!!!」

 大声で叫びたいけど、本当に叫んだらあの性悪たちに何をされるかわからない。私は物置に帰った後、心の中で叫んでバンザイするだけにおさめた。

 この二年あの親子の言われるまま、それが当たり前だと思って受け入れてきた。自己肯定感がゴリゴリに削られて自分はグズで虐げられて当たり前の存在だと思っていた。

 でも、前世を思い出してみれば! そんなわけない! そんなわけないんだよ!

 前世の価値観がプラスされたら、客観的に自分を見ることができる。私がグズなんじゃない、あいつらがクズなだけだ。
 そう思うとすべてが馬鹿らしくなる。前世のことはあんまり覚えてないけど、きっとポジティブな人間に違いない。十六年間のアイノにポジティブな性格がアップデートされて、完全体アイノになった。

 私は部屋の隅に置いてある毛布の中からごそごそと小さな鏡を取り出した。プリンシラ家の者なのに身だしなみも整えないなんて!と髪の毛を燃やされたことがあったので、割れて捨てられていたサンドラの手鏡を拾ったんだ。

「うーん、やっぱりアイノのことは知らないな」



 鏡の中の私をまじまじと見る。サンドラほど美女ではないけど、なかなか可愛い顔をしてる。アイノのこれまでだけ見ると転生ガチャ大失敗だが、顔だけなら転生ガチャ成功だ。

 この絶望ゴミ生活もあと少しで終わる。学園に入ってしまえば人間として最低限の生活は保障されるはず。そう思うとあとちょっと魚の骨くらい食べてやろう。


 ――――魔法学園アロバシルアからのカードを見た途端、私は前世の記憶を思い出した。
 乙女ゲームも転生漫画も大好きだった私は、状況と、そしてどの乙女ゲームに転生したのかを一瞬で把握した。どの世界に転生したのか即座に判断できるこの力、どの世界の転生者にも与えられるスキルなのかもしれなない。


 魔法学園アロバシルア、それからサンドラ・プリンシラときたら!
 『フォスファンタジア』しかないでしょう!!!

 フォスファンタジア、通称フォスファンは大好きなゲームだから詳細まで覚えている。でもアイノ・プリンシラという人物は思い当たらない。
 姉であるサンドラが登場人物の一人なのだから、ゲームではアイノはただのモブだろう。

 アイノはモブ。
 でも、魔力はある。

 それならばこの世界に転生した私がやることは一つしかない!

 フォスファンのヤンデレ悪役魔王・アルトと恋して、ついでにこの世界を救うしかない!!!
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