孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
 そして庭の隅にはお墓がいくつかあった。

「……クリスマスに連れてくるところではなかったな」
「いいえ。アルト様はここで素敵なクリスマスを過ごしていたんですね」
「ああ」

 小さな優しい光たちに照らされた城は、アルト様の思い出のクリスマスを叶えた場所だ。
 ここで眠る人はきっと、アルト様に優しいクリスマスの思い出をくれた人たちなのだ。

「すまない。ただの散歩のつもりだったが、自然と足がここに向かってしまった」
「いえ、嬉しいですよ」

 アルト様は光の粒たちが飛び交う墓地を優しい目で眺めている。決して踏み入ることができなかったアルト様の優しい過去だ。

「クリスマス、久しぶりではしゃぎすぎちゃいました。母が亡くなってからこんな日が来るとは思わなくて」
「お前の母親は亡くなっているのか」

 アルト様は私を見つめた。

「そうなんです。継母に虐められるっていうよくあるパターンですよ」
「暗黒期が終わって王国に戻れば、また継母の元に戻るのか?」
「たぶんどこかの性悪貴族に嫁がされます」
「そうか」
「私が来年も幸せなクリスマスを送るために、来年もここに置いて欲しいのですが」
「来年はまだ暗黒期かもしれないぞ」
「じゃあ再来年も」

 アルト様はズボンのポケットから小さな小包を取り出した。

「まさか! 婚約指輪ですか」
「……違う。期待するな」

 アルト様の長い指が小包の青いリボンを解いていく。中から出てきたのは、銀色に輝く雪の結晶のブローチだった。

「綺麗ですね」

 アルト様は無言で屈むと、私のケープにブローチをつけてくれる。ブルーグレーのケープにそのシルバーはよく似合った。

「私、来年も再来年も、ご馳走作り頑張りますよ。ジンジャーマンクッキーもたくさん作ります。だから一緒にクリスマス過ごしてくださいね」
「わかった」

 アルト様がわかったと言ってくれたなら、その約束は絶対に守られるのだと思う。
 花嫁になれなくてもいい。ヒロインになれなくてもいい。
 ただこれからもアルト様とショコラと、静かに穏やかに時を重ねていきたい。いつかは私もここで眠らせてほしい、だなんてさすがに困らせてしまうけれど。

 私はアルト様がくれた光のプレゼントたちを、アルト様の隣でしばらく眺めていた。
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