孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜

17 春の眠気に誘われて

 
「ルーナ・ヴェーシ」

 色とりどりの花に柔らかく水が降り注ぐ。

「どうですか。かなり広範囲に一気に水やりができるようになってきたんですよ」

 私の手が届く範囲だけでなく、何メートルも離れた場所までシャワーは広がっている。
 自慢げな口調になってしまうのは魔法だけではない。何メートルも先まで花壇が広がっているからだ。

 秋に蒔いた花の種たちが開花したのだ! スローすぎるライフはいつのまにか半年が過ぎていた。

 ……春が来た、ということは、リイラも二年生になったはずだ。二年の中盤に暗黒期は訪れる。だからそれまでに花嫁になる! と目標を掲げて過ごしてきたけど、相変わらず花嫁に向けられる甘さは全くない。

 隣に立つアルト様をこっそり見る。アルト様は魔法で雑草を抜いてくれている。
 ――こうして、隣にいることは許されていると思う。
 クリスマスの日に、これから先のクリスマスの約束はくれた。でもそれは花嫁としてじゃない、と思う。王国に戻れば私は虐げられる生活に戻る。それがわかっていてアルト様が追い出すわけがない。その優しさに甘えているだけだ。

 暗黒期になったら、少しは私のことを求めてくれるんだろうか。
 そんな小さなワガママが胸の中に咲いてしまって、春の訪れは私の心を焦られた。春風が吹くたびに私の心も少し荒れる。

 私はアルト様のことを好きなんだろうか。
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