孤独な悪役魔王の花嫁に立候補します〜魔の森で二人と一匹が幸せを掴み取るまで〜
「ん……。ああ、そうだ。お昼寝してたんだ」
思ったより眠ってしまった気がする、身体の重さは眠りすぎた時のそれだ。
でもここは涼しくて気持ちがいい。もう一眠りしちゃおうかなあ。目を閉じようとしたけれど、違和感を感じて右隣を見る。この身体の重さは……。
「ん!!」
大声をあげてしまいそうになったから口を必死に閉じる。私の肩に寄り添って小さな寝息を立てているのはアルト様だったから!
長いまつげはしっかりと伏せられ、少しだけ開いた唇からすうすうと規則的な息が漏れる。触れた肩が熱い。
アルト様の膝の上には魔法書が乗っている。本を読んでいる途中に眠ってしまったのかしら。
いつも眉間にシワがよっているのに、和らいだ表情はあどけない。
いつまでも見ていられるなあ。お日様の場所的にもう三時くらいになっていそうだけど、また明日作業すればいいもんね。
アルト様の無防備な顔を見つめるほうが重要だ。
だけど、アルト様の瞳はすぐに開いてしまった。
「おはようございます」
じろじろ見てしまったことがバレないようににこやかに挨拶してみる。
アルト様の瞳は大きく見開き、姿勢を正すとまわりを見渡している。寝ぼけてるんだ、可愛い。
「……俺は眠っていたのか?」
「はい。ぐっすり」
「俺が寝ていた……」
アルト様は呆然と呟く。寝顔が見られたのが恥ずかしかったのかな。
「大丈夫ですよ、私も今起きたところですから。じろじろ見てませんよ」
「見てたな」
「へへ」
「何がおかしい」
「幸せだなと思って」
幸せ以外の表現が思いつかなくて、笑みをかみころせない。口を閉じようとするとエヘヘと漏れてしまう。
ただでさえ気持ちのいい日なのに、こうして二人寄り添って昼寝して、寝顔を見た見てないなんてどうでもいいことを言い合う。
「お前は本当にいつも楽しそうだな」
「アルト様のおかげですよ」
別に私は常にゴキゲンガールなわけではない。前世を思い出してからはポジティブにはなったけど、元気でいられるかは別物だ。
お前を見ていると辛気臭い気持ちになる! と何度水をぶっかけられたか。楽しそうだな、と呆れた口調で言われるたびに本当はすごく嬉しかった。
「アルト様といると嬉しいですよ、楽しくて」
「変なやつだ」
アルト様はそっぽを向くけど、どんな顔をしているかわかる。
「おもしれー女ってことですね!」
「言ってない」
一日三食、美味しいご飯を食べて。しっかりお日様にあたる。
ただそれだけの、スローライフ。ずっとこんな日が続きますように。