まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
クラム伯爵夫妻は参加資格がないため、ロベルトがパトリシアの世話をするよう言いつけられていた。

兄は父親の後ろで嫌そうに顔をしかめ、パトリシアも楽しむとは程遠い心境である。

(ロベルトお兄様はずっと不機嫌だろうし、貴族の皆さんとうまく話せる自信もない。おまけに嘘をつかなければいけないなんて。行きたくない)

息子と娘の気持ちを少しも汲む気のない伯爵は、ひとりだけ機嫌よくニタリと笑む。

「お前は若い頃のクレアによく似ている。着飾れば美しい娘だ。王太子殿下に見初められるのも夢ではないかもしれん。先月、殿下の側近にお会いした時にお前の話をしておいたのだ。殿下のお耳にも深窓の令嬢という噂が届いているだろう」

今年の王城舞踏会が特に注目されている理由は、王太子にある。

二十三歳の王太子は今まで浮いた噂のひとつもなかったそうだが、昨年から結婚相手を探し始め、今宵の舞踏会でついに花嫁を決める予定なのだとか。

出世のために娘を王家に嫁がせたいと望む貴族は少なくないらしい。

「お膳立てはした。後はお前次第だ。頑張りなさい」

そう言われてパトリシアは目を丸くした。

(まさか、私に王太子妃になれというの!?)

伯爵家のためになる結婚をさせるとは言われているけれど、王太子妃とは聞いていない。

(貴族らしく振る舞うだけでも大変なのに、王太子妃は無理よ。付け焼刃の私が選ばれるはずないわ)
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