まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 書類を抱えたジルフォードが入ってきたところだった。

 政府機関とこの部屋を往復し出入りが頻繁になる時は、ノックは不要だと言ってある。

 未処理の箱に書類を山積みにした近侍が、青い革表紙の本を机上に置いた。

「これはなんだ?」

 明らかに政務とかかわりのないタイトルに眉根を寄せた。

「王太子妃殿下に贈られたものと同じ本でございます」

 聞けば王妹の叔母が妻と懇意にしており、少し前にこの本を置いていったそうだ。

 おしゃべり好きは難点だが子供の頃は大層可愛がってくれて、朗らかな性格の叔母を好ましく思っている。そのためパトリシアとの深い交流に口出しする気はない。

 しかしジルフォードがわざわざ同じ本を探して持ってきたということは、内容に問題があるのだろう。

 恋愛もののようなタイトルを読み、パラパラとページをめくって眉間の皺を深めた。

「叔母上は一体なにを勧めているんだ」

「市井で流行りの本なので、よいと思われたのかもしれません」

「だとしても、パトリシアにこれはない」

 男同士の赤裸々な恋愛小説だ。

 妻の純朴さを汚された気がして、叔母に文句を言わねばと顔をしかめた。

(いや、純朴なのはクララだった。パトリシアがどうなのかは知らない。どうもふたりを混同してしまう。別人だとわかっているのだが)

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