まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
(男性に対して色っぽいと感じるのはおかしい? あまり殿下の方を見ないようにしよう。平常心を取り戻さないと普通に話せない)

「いえ、むせてしまっただけで風邪は引いておりません」

 蔦柄の壁に視線を留めながら答えると、「そうか」と淡白に返されて間が空いた。

(なにを話せばいいのか、いつも以上にわからないわ)

 静寂に包まれる中、夫がベッドに腰かけたのでパトリシアは見下ろす格好になる。

(私も座るべき? ベッドのどの辺りに?)

 どうにも収まらない動悸に耐えながらやっとの思いで目を合わせたというのに、スッと逸らされてしまった。

 形のいい彼の唇は両端が下がり、不機嫌そうに見える。

 それに気づいた途端、あれほどうるさかった鼓動が静かになっていく。

(そうよね。私に関心がないのに同じ部屋で寝なければならないのだから、嫌に決まっている。ジルフォードさんに申し訳ないと思っているんじゃないかしら。でも目も合わせてくれないほどなんて……)

 嫌われているのかと思ったら、胸に悲しみが湧く。

 形だけの妻だと承知の上の結婚で、愛されたいと少しも思っていないはずなのに、なぜ傷つくのか自分でもわからない。

(同じベッドは使わない方がいいみたい。こんなに嫌がられているのに隣で寝るのは私も悲しい)

「殿下の睡眠のお邪魔をしないよう、私はそちらのソファを使わせていただきます」

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