まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
 いつも堂々として気高い王太子の彼が、恥じらうような性格には思えなかったが。

 説明されても心情を読みきれずにいるパトリシアに、アドルディオンがわずかに口角を上げた。

 サイドテーブルに置かれたオイルランプの火を弱めてベッドの奥側に仰向けに寝そべり、目を逸らさずに妻を誘う。

「寝よう」

 声に温度があるとするなら初対面での彼の声は冬のようだったが、今は湯浴みした時のような温かさを感じる。

「は、はい」

 暗くなった部屋の中で、一度おさまったパトリシアの動悸がまた始まる。

 毛布をそっとめくり、体が触れないよう拳五つぶんほどの距離をとって横になった。

 すると静かな中にアドルディオンの吐息が聞こえて、さらに鼓動が高まる。

(意識したらダメ。寝ることだけを考えよう)

 目を閉じたら余計に隣が気になって、静かな彼の息遣いに聞き耳を立ててしまう。

 高鳴る鼓動が苦しくて、たまらず背を向けたら、気落ちしたような低い声をかけられた。

「俺が嫌いか?」

 パッと目を開け、誤解させたことを慌てて謝る。

「申し訳ございません。そのような気持ちではないです。緊張と恥ずかしさでどうしていいのかわからなくて――あ、あの、勘違いはしていません。殿下が私に興味がないのはわかっております」

 触れ合いを期待していると思われないよう付け足した言葉に、不満げな声を返される。

< 139 / 276 >

この作品をシェア

pagetop