まがいもの令嬢なのに王太子妃になるなんて聞いていません!
それだけの知識しか持ち合わせていないので、王太子に声をかけても会話を弾ませられる自信がない。できれば趣味や関心事が知りたいと思い兄に尋ねたのだが、嘲笑されただけだった。

「いくら努力しても無駄だ。王太子妃はハイゼン公爵家のエロイーズ嬢で内定している。年はお前のひとつ上の十九歳。非の打ちどころのないお嬢様だ」

「えっ、今夜の舞踏会でお決めになるというお話では?」

「お前はバカか。妃をたったひと晩の直感で決めるわけがないだろう。今夜は発表の場に過ぎない」

ハイゼン公爵家は王家の遠縁にあたる有力貴族で、一族の男性の多くが政府の重役についている。

当主のハイゼン公爵は王太子が少年の頃まで教育係としてそばに仕え、そのため娘のエロイーズとも自然と交流する機会が多かったそうだ。

他の有力貴族も我が娘をと画策していたが、エロイーズで決まったという噂がまことしやかに囁かれているらしい。

パトリシアは眉根を寄せた。

「お父様はその噂をご存じないのですか?」

クラム伯爵は官職に就いており、週に三、四日は王城へ出向いている。

王城勤めではないロベルトの耳にも届いている噂を伯爵が知らないはずはないと思うのだが、それならば王太子妃になれとは言わないだろう。わけがわからない。

「もちろん父上も知っている。王太子妃を狙えと言ったのはおそらく、お前の価値を高めるためだ」

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