魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
そんなわけで、魔獣鑑定士の試験を合格して一週間後。ヒースのもとへとナターリエは行くことになった。
ヒースからの依頼はこうだ。古代種たちが生息しているエリアに行って魔獣を捕獲し、魔獣研究所に運びたいと。だが、亜種やら何やらが入り乱れていて、正直なところ自分たちには古代種の見分けが難しい。よって、魔獣鑑定士の力を借りたかったと。
しかし、古代種までの鑑定となると、魔獣鑑定士では、研究所に勤めている56才の男性と、現在旅に出ている52才の女性しか出来ない。そんな時に、新しい魔獣鑑定士の試験があると聞いて魔獣研究所に顔を出したら、ナターリエが現れた……というわけだ。
「ふあぁぁぁぁ……」
出発当日、ハーバー伯爵家の前庭に、ヒースが乗っている飛竜が降りて来た。まさか飛竜に乗って移動をするとは思っていなかったナターリエは大興奮をした。
「まあ、まあ、飛竜に乗ることが出来るのですか? 凄いわ。大きくて立派な翼! それに、あなた素敵な瞳をしているのねぇ~……」
うっとりと飛竜を見るナターリエ。それから「アッ、よろしくお願いします」と頭を下げる。飛竜に向かって。完全にテンションがあがって、わけがわからなくなっている。当然ながら飛竜は言葉がわからないので、それに返事をするわけもない。代わりにヒースが「うん。よろしく」と答えた。
「共についてくる使用人は、この後来る飛竜に乗って欲しい。荷物は1つの飛竜に4つまで乗せられる。いくつ荷物がある?」
「木箱に8つあります」
「では、2頭に半分に分けて積もう」
さすがに、ハーバー伯爵家前に飛竜が到着を出来そうな場はそう多くはとっていないので、一頭ずつの着陸になるらしい。
やがて、もう一頭の飛竜が空に姿を現し、ゆっくりと下降をしてきた。
「お待たせしました」
「ああ、ナターリエ嬢。彼は、俺の副官のフロレンツ・アードラーだ」
その飛竜から降りて来た騎士は、長い金髪を後ろで一つにまとめ、涼し気な顔だちを持つ青年だった。年の頃は、ヒースと変わりがないぐらいに見える。
「第一飛竜騎士団、副官のフロレンツ・アードラーです。フロレンツとお気軽にお呼びください」
生真面目な表情で「お気軽に」と言われても、少しばかり怖気づく。が、ナターリエはなんとか笑顔で返した。
「ナターリエ・ハーバーです。よろしくお願いいたします」
互いに名乗り合って挨拶を終え、フロレンツは荷物を飛竜にとりつけ始める。
さて、ナターリエにはユッテがついていくことになっていたが……
「あ、あの、お嬢様」
「ん?」
「空を、飛ぶ、のですか」
ユッテは青ざめてそう言う。だが、ナターリエは彼女の両肩に手を置いて
「大丈夫よ。目を閉じていればあっという間よ。知らないけど……」
と無責任なことを言った。ユッテは「お嬢様~!」と震えていたが、こればかりはどうしようもない。他の女中たちは「可哀相に……」とユッテに同情の目を向けていた。
「失礼いたします。ナターリエ様。荷物の積み込みを終えました」
フロレンツが声をかけてくる。ちょうど良いとばかりに、ナターリエはユッテを紹介した。
「ありがとう。こちらが、一緒に行くユッテです」
「ユ、ユッテ、と申します」
「フロレンツと申します」
「あの、飛竜、に、乗る、のですか」
「はい」
「ええっと、どうにか、その、馬などで……」
それをどう察したのか、フロレンツは生真面目に答えた。
「馬で行けば数日かかってしまいますが、飛竜であれば半日もせずに、ええ、それこそ出来るだけ早くというご要望であれば2時間で到着いたしますので、その2時間を耐えていただきますよう、お願いいたします。大丈夫です。落ちても、命綱はつけさせていただきますから」
一見丁寧だが、断固として聞き入れない。どうやらこの副官は己の職務に実に忠実らしい。ユッテは「は、はぁい……」と情けない返事をして、ナターリエに笑われた。
その間、ヒースは見送りに出て来たハーバー伯爵の元にいって、頭を下げる。
「この度は、我々に協力をいただき、誠にありがとうございます。ナターリエ嬢は必ずわたしがお守りしますので、ご安心ください」
「ああ。その……よ、嫁入り前の身なので、頼むよ!」
何を言っているんだ、と妻、ナターリエ、兄妹、みなの冷たい目線に晒されるハーバー伯爵。彼は、飛竜に驚いて腰を抜かしそうなのを必死で我慢をしていたのだから仕方がない。それへヒースは生真面目に「はい」と返事をする。
「それでは、行ってまいります」
何にせよ、ナターリエはヒースと共に辺境の地に向かったのだった。
ヒースからの依頼はこうだ。古代種たちが生息しているエリアに行って魔獣を捕獲し、魔獣研究所に運びたいと。だが、亜種やら何やらが入り乱れていて、正直なところ自分たちには古代種の見分けが難しい。よって、魔獣鑑定士の力を借りたかったと。
しかし、古代種までの鑑定となると、魔獣鑑定士では、研究所に勤めている56才の男性と、現在旅に出ている52才の女性しか出来ない。そんな時に、新しい魔獣鑑定士の試験があると聞いて魔獣研究所に顔を出したら、ナターリエが現れた……というわけだ。
「ふあぁぁぁぁ……」
出発当日、ハーバー伯爵家の前庭に、ヒースが乗っている飛竜が降りて来た。まさか飛竜に乗って移動をするとは思っていなかったナターリエは大興奮をした。
「まあ、まあ、飛竜に乗ることが出来るのですか? 凄いわ。大きくて立派な翼! それに、あなた素敵な瞳をしているのねぇ~……」
うっとりと飛竜を見るナターリエ。それから「アッ、よろしくお願いします」と頭を下げる。飛竜に向かって。完全にテンションがあがって、わけがわからなくなっている。当然ながら飛竜は言葉がわからないので、それに返事をするわけもない。代わりにヒースが「うん。よろしく」と答えた。
「共についてくる使用人は、この後来る飛竜に乗って欲しい。荷物は1つの飛竜に4つまで乗せられる。いくつ荷物がある?」
「木箱に8つあります」
「では、2頭に半分に分けて積もう」
さすがに、ハーバー伯爵家前に飛竜が到着を出来そうな場はそう多くはとっていないので、一頭ずつの着陸になるらしい。
やがて、もう一頭の飛竜が空に姿を現し、ゆっくりと下降をしてきた。
「お待たせしました」
「ああ、ナターリエ嬢。彼は、俺の副官のフロレンツ・アードラーだ」
その飛竜から降りて来た騎士は、長い金髪を後ろで一つにまとめ、涼し気な顔だちを持つ青年だった。年の頃は、ヒースと変わりがないぐらいに見える。
「第一飛竜騎士団、副官のフロレンツ・アードラーです。フロレンツとお気軽にお呼びください」
生真面目な表情で「お気軽に」と言われても、少しばかり怖気づく。が、ナターリエはなんとか笑顔で返した。
「ナターリエ・ハーバーです。よろしくお願いいたします」
互いに名乗り合って挨拶を終え、フロレンツは荷物を飛竜にとりつけ始める。
さて、ナターリエにはユッテがついていくことになっていたが……
「あ、あの、お嬢様」
「ん?」
「空を、飛ぶ、のですか」
ユッテは青ざめてそう言う。だが、ナターリエは彼女の両肩に手を置いて
「大丈夫よ。目を閉じていればあっという間よ。知らないけど……」
と無責任なことを言った。ユッテは「お嬢様~!」と震えていたが、こればかりはどうしようもない。他の女中たちは「可哀相に……」とユッテに同情の目を向けていた。
「失礼いたします。ナターリエ様。荷物の積み込みを終えました」
フロレンツが声をかけてくる。ちょうど良いとばかりに、ナターリエはユッテを紹介した。
「ありがとう。こちらが、一緒に行くユッテです」
「ユ、ユッテ、と申します」
「フロレンツと申します」
「あの、飛竜、に、乗る、のですか」
「はい」
「ええっと、どうにか、その、馬などで……」
それをどう察したのか、フロレンツは生真面目に答えた。
「馬で行けば数日かかってしまいますが、飛竜であれば半日もせずに、ええ、それこそ出来るだけ早くというご要望であれば2時間で到着いたしますので、その2時間を耐えていただきますよう、お願いいたします。大丈夫です。落ちても、命綱はつけさせていただきますから」
一見丁寧だが、断固として聞き入れない。どうやらこの副官は己の職務に実に忠実らしい。ユッテは「は、はぁい……」と情けない返事をして、ナターリエに笑われた。
その間、ヒースは見送りに出て来たハーバー伯爵の元にいって、頭を下げる。
「この度は、我々に協力をいただき、誠にありがとうございます。ナターリエ嬢は必ずわたしがお守りしますので、ご安心ください」
「ああ。その……よ、嫁入り前の身なので、頼むよ!」
何を言っているんだ、と妻、ナターリエ、兄妹、みなの冷たい目線に晒されるハーバー伯爵。彼は、飛竜に驚いて腰を抜かしそうなのを必死で我慢をしていたのだから仕方がない。それへヒースは生真面目に「はい」と返事をする。
「それでは、行ってまいります」
何にせよ、ナターリエはヒースと共に辺境の地に向かったのだった。