魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
「失礼いたします」

 待っているナターリエのもとに、担当者とヒースが戻ってきた。

「まずは、ハーバー伯爵令嬢、お疲れ様でございます」
「あっ、はい。ありがとうございます」
「試験の結果、あなたは合格いたしました」
「えっ!」

 あまりにあっさりと言われて、拍子抜けをするナターリエ。もう少しこう、何かないのかと思ったが、どうも本当に「そう」らしい。

「ありがとうございます」
「こちらから質問をいくつかしてもよろしいでしょうか」
「えっ? あ、はい。どうぞ」

 担当者が頷き、ヒースが口を開く。

「9匹目と10匹目、よくわかったな」
「あの……古代種がいるとは思わなかったので、とても驚きました」
「そうだろう。本当は8匹の鑑定までが試験なのだが……古代種も鑑定をきっちりしてもらい、逆にこちらが驚いている」
「えっ、そうなんですか」
「実は、あの2匹をここに運び込んだのは俺だ」

驚くナターリエ。

「えっ……あの2匹を、ヒース様が捕獲なさったということですか」
「ああ。要するに……古代種が、多くいる巣というか。そういうエリアを見つけてしまってな。そこから、1匹ずつ連れてきているところで」
「知らなくとも無理はない。辺境の魔獣に関することは、そうそう話題にあがらないしな。それで……これは本当に可能性の話であって、強要などは一切しないのだが……あなたに、共に来て欲しいと思っていて……」
「え?」

 ヒースの言葉の意味がわからず、首を傾げるナターリエ。

「伯爵令嬢であるあなたに、こんな依頼をするのは恐縮なのだが」

 そう言いながら、ヒースは事情を話した。



「というわけで、ヒース様のお眼鏡にわたしは叶ったので、一緒にリントナー領に行きたいのです」

 突然の話に父親であるハーバー伯爵はひっくり返りそうになるほど驚き、母親は「危険じゃないの?」とすんなり尋ねる。

「ヒース様が守ってくださるとおっしゃるので……」
「駄目だ! 嫁入り前の娘が、そんな、よくわからん魔獣の巣窟へ行くなぞ……」
「でも、お父様。お話を聞けば、本当に魔獣鑑定士が必要なのです」
「そうねぇ~。あなた、良いんじゃないですか? どうせ、しばらくはここにいても『第二王子から婚約破棄をされた令嬢』って目で見られてしまうし。わざわざ魔獣鑑定士に合格をしたっていう噂を流すのもなんだし」

 その母親の意見はもっともだ。実際、グローレン子爵のパーティーで、ナターリエは肩身の狭い思いをした。竜を見て逃げ帰って来たから忘れていたが、あの場で人々がこそこそとあれこれ話していたことを思い出す。

「いや、しかしな……ううん……」
「戻って来る頃には、他の噂でそんな噂は忘れられている頃だと思いますし!」

 仕方がない、とばかりにハーバー伯爵は項垂れた。どうも、ハーバー家は女性が強いようだ。
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