魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
4.リントナー領
 およそ三時間をかけ、ようやく目的地に到着した。ゆっくりと森の中を飛竜が下降をしていく。辺境の地とは聞いていたが、そうとは思えないほどしっかりとした邸宅が森の中にはあり、人々が飛竜を迎え入れる。

 ナターリエはヒースの手を借りて飛竜から降りた。飛竜騎士団の人々が数名、ヒースの飛竜を受け取り、彼に挨拶をする。

「お帰りなさいませ」
「おう。飛竜に餌をやってくれるか」
「かしこまりました」
「あとからフロレンツも来る。ああ、荷物も運んでくれ。ナターリエ嬢。こちらに」
「は、はい」

 ぺこりとヒースの仲間、いや、部下に会釈をして微笑むナターリエ。それから、彼に連れられて邸宅の中に入れば、エントランスに数名の使用人が待っている。

「ここは我がリントナー家の別荘でな……みんな、彼女はナターリエ・ハーバー伯爵令嬢だ。魔獣鑑定士のスキルを所持していて、古代種の捕縛を手伝ってくれることになった。後ほど彼女付きの使用人が来るので、そちらも頼む」

 使用人たちはみな頭を下げる。

「よろしくお願いいたします」

 とナターリエが言えば、ヒースは「そんな言葉遣いをしなくとも」と言う。

「ええーーっと、他の貴族の邸宅にお邪魔をすることが普段ないので、ちょっとよくわからないのですけれど」
「自分の家だと思ってくれれば良い。執事のティート、女中頭のヘンリケだ。後はおいおいわかるだろうさ」
「は、はい。では、皆様、どうぞよろしく……!」
 
 慣れぬ様子で挨拶をするナターリエに、使用人たちはみな好意的な微笑みを浮かべるのだった。

 

 部屋に案内をされてしばらくすると、後からユッテが荷物と共にやって来た。彼女はふらふらとやってきて、帰りも飛竜に乗ると思うと……とぶつぶつ文句を言う。どうも、彼女は空の旅はお気に召さなかったようだ。だが、フロレンツが彼女をそれなりに気遣って、休憩を多くとってくれたのだろうとナターリエは思う。

 木箱を開けて、ナターリエの衣類を整理する。クローゼットは部屋にあったので、そこに並べていくユッテ。

「ユッテのお部屋は?」
「わたしもお部屋をいただきまして。階段をあがって逆側の、階段側から数えて三つ目の右側です」
「そうなのね。ここでもよろしくね。慣れないとは思うけれど」
「勿論です!」

 それから、あれこれと物を整理して、少しばかり休憩をと2人は手を止めた。すると、ドアをノックする音が響いた。

「はい」
「執事のティートでございます」
「どうぞ」
「失礼いたします」

 そう言って扉を開けたティートは40代後半ぐらいの執事だ。一礼をしてから、温厚そうな笑みを浮かべる。

「ナターリエ様、お時間がございましたら邸宅内の案内と、それが終わりましたらヒース様とのお茶はいかがでございましょうか」
「は、はい、よろしゅうございます!」

 つい、よくわからない言葉遣いで返すナターリエ。ユッテは「お嬢様ったら、前途多難だわ……」と思ったが、それを口には出さなかった。
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