魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
「ここは普段は別荘として使っていたのだが、2年ほど前からここを拠点として魔獣の捜索隊と討伐隊を作っていてな。すぐ近くに宿舎を用意して、そちらに部下たちは暮らしている。明日はそちらに行こう」

「わかりました」

「そして、明後日からは探索を開始する……ああ、すまん。食べてくれ」

 説明を聞くため、手が止まっているナターリエに気付いてヒースが菓子を勧める。見たことがない果物が乗っているタルトを口にするナターリエ。

「美味しい!」
「ははっ、そうか。それは、この辺で採れる果実を使っているんだが、口にあったならよかった」
「ええ、初めて食べました。酸味と甘味がちょうどよくって、とても美味しいです。焼き加減もクリームも、ええ、みんな好きです。こちらの厨房でお作りになっているのですね? 良い腕ですね!」

 嬉しそうに笑えば、ヒースも口端を軽くあげる。その表情を見て、ナターリエは首を軽く傾げた。

「……ヒース様はそういえば」
「うん?」
「あの、グローレン子爵のパーティーで初めてお見かけした時……そのう、眉間にこう、皺を寄せていらしたのですけど……今は、あれが気のせいかと思うぐらいですわね?」

 考えれば、竜の柵の前で会ってから今まで、彼は険しい表情をそうは見せていない。何故、パーティーであんなしかめっ面だったのかと不思議になってナターリエは尋ねた。

「ああ……うん。少しばかり、苛立つことがあってな」
「あっ、そうだったのですね……わたし、ヒース様がいつもああいうお顔でいらっしゃるのかと思って、少しどきどきしました」
「怖がらせたか。それは、すまなかった」
「いえ! その後、竜の柵のところでお会いした時には、すっかりしかめっ面ではなかったので……単に魔獣が好きな方なんだと……」

 そのナターリエの言葉に、ヒースは軽く笑った。

「それは、ナターリエ嬢だろう」
「えっ」
「あの竜を見ていた様子でわかった。あなたは魔獣が好きなんだな」
「ううーん、そうですね。好きは好きです」

 その、煮え切らないナターリエの言葉にヒースは少し不思議そうな表情を見せる。

「魔獣には会えないと思っていて、でも、幼少期からずっと憧れていたんです。とはいえ、意思の疎通が出来るものは多くはないですし、気性が荒いものが多いので、そう、好き、というよりも……興味がある、でしょうか。それを好きに含めれば、好き、なのだと思いますけど」
「なるほど、興味がある?」
「そうですねぇ、わたしが一番、魔獣に関して面白いと思うのは……その外側、見た目、恰好などは勿論魅力的だと思うのですが、面白さで言うとそこではなく、やっぱりスキルです。魔獣は魔獣しか持たないスキルを持っていますし、それぞれの体や生息地にそれがあっています。それは、その辺にいる野生動物たちと同じなんですけど……でも、中にはどうしてそれを、って思うものもいて。それを見つけて、あれこれ考察するのが楽しいですね!」
「ううん……?」

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