魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
5.飛竜の鑑定
翌日、ヒースは仕事が入ったと言って一日邸宅を空けた。ナターリエはユッテと共に、もう一度邸宅内のあちこちに顔を出して――執事のティートと行った時は使用人と話は出来なかったのだ――改めての挨拶をして過ごす。

 使用人たちはみな友好的で、ヒースが好かれていることがわかった。それを、女中頭ヘンリケに言えば、彼女もまた優しく微笑んで「みな、ヒース坊ちゃまのことを好いております」と答える。「坊ちゃまかぁ~」とナターリエは笑いそうになったが、そこはなんとか堪えた。

更に翌日、ナターリエはヒースとフロレンツに案内をされて、邸宅の横にある騎士たちの宿舎に足を運んだ。土地はいくらでもあるとばかりの大きな建物だったが、それをしっかり建築出来るあたりがリントナー辺境伯領の力があるのだと思える。

「まあ、飛竜たちがたくさん……!」

 飛竜たちがおおよそ20体並ぶ、いわば竜のための小屋。その一つ一つにナターリエは顔を出す。

(あら? 3体分空いているのね?)

 ぽつぽつと空いている。それは、もともと竜がいなくて空いているのではなく、「今はいない」状態なのだとナターリエは判断をした。

「ヒース様、3体はお出かけ中ですか?」
「ああ、そうだ。今朝からちょっと、その、おつかいのような」
「おつかい?」

 仕事ではないのか、と思ったが、あえてナターリエはそこは問わず、今並んでいる竜の鑑定を始めた。飛竜はスキルをほとんどがもとない種族だとはわかっていたが、未知のスキルがあれば……とヒースに言われたためだ。

「わあ~! ヒース様、この飛竜、凄いですねぇ」
「うん?」
「スキルに気配察知と高度飛行があります」
「何だって……?」

 驚くヒース。フロレンツに「知っていたか?」と聞けば、フロレンツも首を横に振る。

「こいつは、何か怖がりだと思っていたが……気配察知?」
「ええ、ええ。きっと、他の魔獣などの気配を誰よりも過敏に察知するのだと思います」
「なるほど……それと、高度飛行? そんなものがあったのか……」
「はい。通常の飛竜の飛行はそこまで高くないですが、この竜はそれより高く飛べるんですね」
「……なるほど! お前はそんなスキルを持っていたのか。おい、ヴェーダを呼んで来てくれ」
「かしこまりました」

 ヒースが声をあげると、フロレンツが建屋に向かっていく。ナターリエはそれを気にもせず、飛竜たちの顔を一頭一頭見て回り続ける。

「まあ! ヒース様、この飛竜……」
「今度は何だ?」
「遠方監視のスキルがあります」
「えんぽうかんし……?」
「はい! 普段見えない遠い場所を一時的に集中してみることが……ああ、でも会話が出来ないから意味がないですねぇ」

 目を輝かせて、いささか早口になるナターリエ。

「……あっ、この竜も高度飛行のスキルがありますね!? こちらは、ヒース様の?」
「ああ。俺の竜だ」
「ああ、時間が限定されているようですね」
「時間?」

 ヒースの飛竜は、高度飛行のスキルは表示されているが、時間が限定されているようだ。だが、その時間がどれぐらいのものなのかまでは、ナターリエには見ることが出来ない。

(人のスキルだったら、そこまで見られるけれど……魔獣のスキルとなるとまた違うのね。力が及ばないのだわ……)

 と、いささか心が曇ったが、それを言っても仕方がない、と思う。

「時間が限られているようです。どれぐらいの持続かはわかりませんが」
「なるほど。だから、今まで特に高い場所を飛べなさそうだったのかな……」

 ヒースはそう言って自分の飛竜に「おい、どれぐらいなんだ?」と声をかけたが、飛竜は当然言葉を返すわけもなく、ヒースの言葉を気にしない。

「それから、こちらの竜は潜在スキルで高度飛行がありますね。そのうち覚醒するでしょう」

 ナターリエは20体ほどの飛竜を次から次に鑑定をして、最後には

「ああ、しまった……鑑定をし過ぎました……」

 と、その場にへたりこんでしまう。
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