魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
6.古代種のエリア
 翌日、飛竜に乗って騎士団員3人と共に、例の「古代種がいるエリア」に向かった。ナターリエは再びヒースの前に乗る。二度目なので少しは慣れたようだった。

「飛竜に乗っている間は攻撃をされない。奥地に行かなければ攻撃的な魔獣はあまりいない場所なので、今日はひとまず手前を巡回する」
「わかりました」

 飛竜に乗っている間に攻撃をされない、というのは当然のことだ。飛竜は竜族の中では下位に近い存在だが、そもそも竜族は古代種の魔獣からしても、竜であるだけで上位だからだ。むしろ、警戒をして逃げられることも多いと言う。

「それにしても、森が広すぎて……」
「ああ、この辺りも実はリントナー領なんだが、未開の土地が広すぎて把握が出来なくてな……リントナー領の7割は山や森で、そのうちの8割はまったく手を出せていない」
「そうなんですか」
「うん。実際、辺境伯としては、他国に対する警戒と交易に力を入れるのが筋なのでな。それも、関所を設けて今は順調なので、少し未開の土地を探索しだしたら、こんなことになってしまった」

 そもそも飛竜騎士団も、もともとは他国へのけん制のために作られている。また、ヒースの姉が今は指揮をして、国境警備をしているのだと言う。

「ご家族の仲が良いのですね」
「そうだな。関所は姉が、領民たちの生活は叔父と父が面倒を見てくれている。そのうち、弟が姉の代わりになるかもしれない。俺は、魔獣に詳しかったので一時的にこの地に住んでいる。魔獣たちが徐々に人が住む町に近づくのも防がなければいけないし、昨年は魔獣が畑を荒らしまわって大問題になってな。おかげで、やることは沢山あるんだ」

 なるほど、話がようやくわかった、とナターリエは思う。そもそも辺境伯令息という立場でありながら、何故彼が魔獣討伐にいそしむのかわからなかった。それこそ別の人に任せれば良いのに……と思えたが、彼が魔獣に詳しいならば仕方がないのだろうと。

 ヒースの前に飛んでいた騎士団が、手で何か合図を送る。

「高度を下げるぞ」
「はい」

 森の中、ぱっくりと木々が割れて山岳地帯が現れる。そこへ、飛竜たちは次々に吸い込まれるように降りていくのだった。



 山岳地帯の中に、緑がそこここに生えている。飛竜は低空飛行を続けた。

「わあ!」

 同じく、空を飛ぶ魔獣が飛竜の下に飛んでいる姿を見て、ナターリエは驚いた。

「あれは、ヘーラウですね……!?」
「そうだな。あれが、一番行動範囲が広いので、この辺でも見られる古代種だ。最初にあれを発見したことで、古代種がいるエリアがみつかった」

 人間ぐらいのサイズで飛んでいるその魔獣は、竜のような翼をもつが、顔がずんぐりと丸い。あまり空を飛ぶのは得意ではないようで、すぐに降りていく。

「ヘーラウは既に捕らえて魔獣研究所に送った」
「なるほど……わあ! ああああ、あれは、ノースですね……恐ろしい……!」

 蛇型の魔獣がうようよと動いている姿が見える。ナターリエは背筋をぞくりと何かが走り、体を震わせた。

「あれは古代種ではないが、この辺に結構いるな。魔獣の中では珍しい蛇型だ。飛竜から降りると、姿を潜めてこちらに向かってくるので、出来るだけ近付きたくない」
「わ、わ、わたしも出来るだけ近付きたくないです……」

 その言葉にヒースは豪快に笑った。
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