魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
 ヒースはナターリエの部屋の扉を閉めてから、エントランスに行き、脱ぎ捨てた外套を拾った。それから「くそっ」と独り言を口から発する。

(やっちまった……!)

 つい、出来心で。いや、出来心と言うのもいささか問題があるが。

(必要以上に、力を入れて抱いてしまった)

 大体、ナターリエが悪い、と責任転嫁をするヒース。リントナー家から貸し出した寝間着が、まず、可愛らし過ぎた。話はそこからだ。いや、そこではない。

(怖がられていないと良いのだが)

 明日、飛竜に2人乗りをするというのに、自分は何をしてしまったのかと大反省会だ。だが、その反面

(柔らかかったな……)

 と、彼女の体の感触を思い出す。

 駄目だ。もう、隠せない。自分はナターリエが好きだ。突然の行為と突然の自覚に、一気にかあっと体が熱くなる。

(わかってはいた。好ましいと思っていることは。だが……)

 彼女は、自分のことをそうは感じていないだろうと思う。だからこそ、リューカーンのところで第二王子の話もしたのだろうし……と。

「ええい、俺も寝よう。いい加減、時間も遅い」

 誰にともなく口に出し、濡れそぼった外套を持って、どかどかと自分の部屋に戻るヒース。だが、その脳内では、ナターリエのことばかりを考えてしまい、眠れぬ夜を過ごしたのだった。
< 53 / 82 >

この作品をシェア

pagetop