魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
 結局、王城に出発をしたのは4日後の朝。ヒースの飛竜以外に魔獣を運ぶ飛竜2体で、まずは魔獣研究所を目指す。

「ナターリエ嬢」
「はい」
「話したくなければ、良いのだが……第二王子とは、どれぐらいお会いしたことがあるんだ?」
「婚約前に一度、婚約式に一度、それから、10回ちょっと……ぐらい……でしょうか?」
「婚約はいつ?」
「5年前です」

 ヒースは脳内で計算をして、どうも回数が少ない、と思い至った。

「年に2,3度程度しかお会いしていなかったのか……?」
「はい」
「催し以外では?」
「会っていただけなくて……あっ、違うんですよ。その、まず、わたしがあまりにお勉強が出来なかったので、それが出来るようになってから会うと……」

 どういうことだ、とヒースは思う。勉強が出来ない? それが出来るようになってから会う? 話がよくわからない。

「そのう、多分、ディーン様はわたしと会いたくなかったんでしょうね。その、勉強がどこまで進んだのかを確認されて、じゃあ、まだ会えないな、と言って逃げられてしまって……」
「は……?」
「あっ、でも、確かに、わたしも勉強不足だったんです。わたし、魔獣については当時は趣味のようなものでしたのでそれはともかくとして、スキル鑑定士だったので……スキル鑑定士は、スキルに関する勉強をしなければいけないんです」
「なるほど……?」
「少なくともわたしは……自分の知識にないスキルは『見えない』んです。なので、少しでも多くのスキルを知るために、それこそ、魔獣の勉強のように日々スキルの勉強をしなければいけなくって。なので、わたし、一般教養というものを学ぶ時間が足りなくてですね……」

 それは、考えれば相当大変なことだろうとヒースは思う。ナターリエが口にしている「一般教養」というものは、貴族の子息・子女の間で言われるものでは「ない」と気づいたからだ。

 それらは、王族の一員としての一般教養だ。幼い頃から王族の子息子女が学ぶもの。それをナターリエに第二王子は押し付けたということだ。

(確かに、結婚をするとなると……ナターリエは王族の一員ともいえる立場になってしまうわけだし、必要だ)

 しかし、同時にスキル鑑定士であるための勉強も必要だし、体が弱くて倒れていた時期もあったわけだし、彼女はおお忙しだ。

「でも、今ならわかるんです」
「何を?」
「ディーン様は、わたしを受けいれようとしてはいたんだなって。ただ、どうしてよいのか、わからなかったんだろうと。一般教養も、そんなに難しいものだと思っていなかったんじゃないかなぁと……お会いするたびに、どうして、そこまでしか進んでいないんだって怒られてですね……すぐに勉強の成果を見せろと言われて、あれこれと質問をされて……」

 自分はうまく勉強が出来なかったし、でも、それが精いっぱいだったのだとナターリエは小さく笑う。そして「そう難しくもなく出来るであろう」と第二王子が思っていた一般教養を、いつまでたっても習得しない婚約者だったので、仕方がないのだと。

 それは、ヒースも少しわかる。ナターリエは、そう勉強が出来る人物ではない。魔獣については「好き」だから詳しくなったのだ。そんな彼女が、スキル鑑定の勉強と一般教養の勉強を並行して行うことは、案外と難しかったのだろうと思う。

 そもそも、スキル鑑定士が見るスキルは、体系別に分かれているものから、まったく関係なく独立したものから、とんでもない量があるという。それを、地道に暗記をしなければいけない。そして、それぞれについて書いてある文献は体系だっておらず、要するに「これだけ読んでおけばよい」というものはなく、あちらこちらからつぎはぎだらけの情報を集めなければいけない。

 また、複合スキルだとか、派生スキルだとかの関連付けについても曖昧だ。曖昧だが、見なければいけない。知らなければいけない。そして、それを知っている人間から教えてもらう、ということは出来ないのだ。そういうことを、日々ナターリエは覚えようとしていたのだ。
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