魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
15.青天の霹靂
「お嬢様、お帰りなさいませ!」
「ただいま、ユッテぇ~~」
「急な外泊が続きますねぇ」
「そうなのよ。でも、昨晩はふかふかのベッドだったし、よく寝たのだけど」
半分は本当だが、半分は嘘だ。寝付いてからはぐうぐうと朝までノンストップで眠っていたが、寝付くまでが大問題だった。
(ヒース様の腕に抱かれてしまった……いえ、きっと、ヒース様は気にはなさっていないと思うんだけど……!)
だが。なんとなく、ぎゅっと抱かれたのは気のせいだっただろうか。それとも、力を入れて受け止めなければいけないほど、自分は体重をかけてしまっていただろうか? そうではない気がしていたが……。
そんなことをぐるぐると考えていたのだから、眠りに入るまでいささか時間はかかった。だから、よく寝たと言えばよく寝ているが、よく寝ていないと言えばよく寝てもいないのだ。
(でも……少し……)
嬉しかったのだ。あの大きな腕に抱かれて、鼓動は早くなり、きっと体温すらあがってしまっていただろう。緊張をして、どうにかなりそうで。けれども、間違いなく「嬉しかった」のだとナターリエは感じた。
そして、それからの飛竜上でのあれだ。もう、昨晩から引き続き情緒がおかしい。おかしいが、少しだけ見て見ぬふりをしたい。
ソファに座ってユッテに茶を所望すると、茶の前に……とユッテが神妙な表情を見せる。
「お嬢様、実は昨日、お手紙が届いておりまして」
そう言って、手紙をナターリエに渡すユッテ。その封蝋を見て、ナターリエの表情は一気に硬くなった。それは、王族のものだったからだ。
慌てて封を開けて中を見ると、ナターリエの眉はしかめられる。
「ユッテ、ちょっと、ヒース様のところに行ってくるわね」
休む暇もなく起き上がって、ナターリエはヒースの執務室へと向かった。
ヒースの執務室では、フロレンツがルッカの町付近にどう飛竜騎士団を配置しようか、と話をしているところだった。
「お話し中でしょうか。でしたら、出直しますが……」
とナターリエが言えば、フロレンツは「大丈夫です」と言って彼女を迎え入れた。
「どうした?」
「あの、王城から手紙が届きまして……」
「王城から?」
「はい。その……一度、王城に行かなければいけないようで……」
「どういうことだ?」
ナターリエは少しばかり悲し気な表情で伝えた。
「第二王子との婚約破棄の手続きが必要だということです……ですが……そんな手続きは聞いたことがなくてですね……」
「婚約は口約束だったのでは?」
「はい。特に書類や儀式もなく決められたことでしたので……」
ヒースとフロレンツは顔を見合わせた。
「怪しいな。それは、やっぱり第二王子との婚約を、むしろ破棄しない方向で話が動くのかな……いつまでに行けばいい?」
「急ぎでとは書かれてありました」
「そんなもんは少しは待たせておけ。フロレンツ。次に魔獣をとらえたら、俺が魔獣研究所に連れて行く。その時にナターリエを王城に送る」
「はい。今日、罠を設置しています」
頷くフロレンツ。何も彼が言わない、ということは、それなりに次に捕獲をする古代種の目途もついているということだ。
「それでいいな? ナターリエ」
「は、はい。どちらにしても、飛竜に乗せてもらうか、馬の手配をいただかなければわたしは帰れませんので」
「うん。悪いが、待たせておいてくれ。その間に、ルッカの町を襲っているビスティも退治出来るだろう。そうしたら、俺が送っていくから」
「ありがとうございます」
少しだけヒースの表情が険しいと思ったが、あえてナターリエは何も言わなかった。それから3日後、ビスティの退治と同時に、魔獣の捕獲もされたという報告があがった。
「ただいま、ユッテぇ~~」
「急な外泊が続きますねぇ」
「そうなのよ。でも、昨晩はふかふかのベッドだったし、よく寝たのだけど」
半分は本当だが、半分は嘘だ。寝付いてからはぐうぐうと朝までノンストップで眠っていたが、寝付くまでが大問題だった。
(ヒース様の腕に抱かれてしまった……いえ、きっと、ヒース様は気にはなさっていないと思うんだけど……!)
だが。なんとなく、ぎゅっと抱かれたのは気のせいだっただろうか。それとも、力を入れて受け止めなければいけないほど、自分は体重をかけてしまっていただろうか? そうではない気がしていたが……。
そんなことをぐるぐると考えていたのだから、眠りに入るまでいささか時間はかかった。だから、よく寝たと言えばよく寝ているが、よく寝ていないと言えばよく寝てもいないのだ。
(でも……少し……)
嬉しかったのだ。あの大きな腕に抱かれて、鼓動は早くなり、きっと体温すらあがってしまっていただろう。緊張をして、どうにかなりそうで。けれども、間違いなく「嬉しかった」のだとナターリエは感じた。
そして、それからの飛竜上でのあれだ。もう、昨晩から引き続き情緒がおかしい。おかしいが、少しだけ見て見ぬふりをしたい。
ソファに座ってユッテに茶を所望すると、茶の前に……とユッテが神妙な表情を見せる。
「お嬢様、実は昨日、お手紙が届いておりまして」
そう言って、手紙をナターリエに渡すユッテ。その封蝋を見て、ナターリエの表情は一気に硬くなった。それは、王族のものだったからだ。
慌てて封を開けて中を見ると、ナターリエの眉はしかめられる。
「ユッテ、ちょっと、ヒース様のところに行ってくるわね」
休む暇もなく起き上がって、ナターリエはヒースの執務室へと向かった。
ヒースの執務室では、フロレンツがルッカの町付近にどう飛竜騎士団を配置しようか、と話をしているところだった。
「お話し中でしょうか。でしたら、出直しますが……」
とナターリエが言えば、フロレンツは「大丈夫です」と言って彼女を迎え入れた。
「どうした?」
「あの、王城から手紙が届きまして……」
「王城から?」
「はい。その……一度、王城に行かなければいけないようで……」
「どういうことだ?」
ナターリエは少しばかり悲し気な表情で伝えた。
「第二王子との婚約破棄の手続きが必要だということです……ですが……そんな手続きは聞いたことがなくてですね……」
「婚約は口約束だったのでは?」
「はい。特に書類や儀式もなく決められたことでしたので……」
ヒースとフロレンツは顔を見合わせた。
「怪しいな。それは、やっぱり第二王子との婚約を、むしろ破棄しない方向で話が動くのかな……いつまでに行けばいい?」
「急ぎでとは書かれてありました」
「そんなもんは少しは待たせておけ。フロレンツ。次に魔獣をとらえたら、俺が魔獣研究所に連れて行く。その時にナターリエを王城に送る」
「はい。今日、罠を設置しています」
頷くフロレンツ。何も彼が言わない、ということは、それなりに次に捕獲をする古代種の目途もついているということだ。
「それでいいな? ナターリエ」
「は、はい。どちらにしても、飛竜に乗せてもらうか、馬の手配をいただかなければわたしは帰れませんので」
「うん。悪いが、待たせておいてくれ。その間に、ルッカの町を襲っているビスティも退治出来るだろう。そうしたら、俺が送っていくから」
「ありがとうございます」
少しだけヒースの表情が険しいと思ったが、あえてナターリエは何も言わなかった。それから3日後、ビスティの退治と同時に、魔獣の捕獲もされたという報告があがった。