魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
19.ルッカの町の祭り
馬をルッカの町の外周にある預け場に預け、2人は早速町に入った。町全体が祭りという感じではなかったが、遠くには賑やかな音が聞こえる。
「ヒース様、こんにちは!」
人々に声をかけられ、ヒースは片手をあげて返す。
(まあ、まあ、以前も思ったけれど、ヒース様はとてもみなさんに慕われていらっしゃるのね。良いことだわ……)
うふふ、とナターリエはつい声をあげてしまい、ヒースに「なんだ?」と尋ねられる。
「あっ、いえ、いえ、なんでもありません」
「そうか?」
ナターリエは「気をつけよう」と思いながら、背筋を伸ばした。
(折角のお祭りですから、昨日のことは忘れて楽しみましょう……ええっと、ヒース様からの、その……あれも……忘れて……)
第二王子との婚約のことはともかく、そちらを忘れるのは少し難しそうだ、とナターリエは思う。ちらりとヒースを見れば、彼はいつも通りに見え、まるでプロポーズをしたことを忘れているのではないかと思えてしまう。
「ヒース様、お疲れ様です」
道行く兵士2人が頭を下げる。
「おう。巡回か? ご苦労だな」
「はい。町の中央部に人が集まっていますので、勿論そちらにも多く派遣されておりますが、人が少なくなっているエリアにも巡回を増やしています」
「ああ、大変だと思うが頼むぞ」
「はっ」
ヒースはそう言って歩きつつ「なんか悪い気がしてくるんだよなぁ」と苦笑いを浮かべる。
「まあ、姉貴からチケットもらったから、その分は遊んで帰るか」
「そうですね。ああ、賑やかな声がここまで届いていますね。何があるのかしら……?」
やがて、人々が集まる祭りの中心部に2人は出た。予想以上の喧噪に驚く。
「まあ、まあ、人が沢山集まっているわ!」
「凄いな。この町、こんなに人がいるのか」
これにはヒースも予想外だったようで、声をあげる。
町の中心にある広場には露店が集まり、道行く人の活気もある。こういう日は浮ついてしまうが、町を巡回する兵士たちの数は多い。きっと、関所も国境の詰所も、祭りの間は人が多いに違いない。
「あれは何ですか?」
「うん? あれは、肉を詰めたパイだな。この辺ではよく食べるが」
「そうなのですね」
「……食べるか?」
「はい! はい!」
二度返事をするナターリエ。露店に並んでいるパイは手でそのまま食べられるように紙で包まれている。ヒースがチケットを2枚使って2個買い、ナターリエに渡す。
「わあぁぁぁ」
ナターリエは両手でパイを持って、じいっと見つめる。
「凄いです。こんな風に、買い食い……と言うんでしょうか? それをすることは初めてです!」
「そうか。ハーバー領ではこういう祭りはないのか」
「ありますが、買って食べるということはなかったです。これは、えっと、食べながら歩く……?」
「それも悪くないが、あそこが空いている。座ろう」
ヒースは広場の噴水を指さした。普段は子供たちがその辺りでわいわいと遊んでいるが、今日はみな露店を覗いているのか、噴水の台座が空いていた。
「ヒース様、こんにちは!」
人々に声をかけられ、ヒースは片手をあげて返す。
(まあ、まあ、以前も思ったけれど、ヒース様はとてもみなさんに慕われていらっしゃるのね。良いことだわ……)
うふふ、とナターリエはつい声をあげてしまい、ヒースに「なんだ?」と尋ねられる。
「あっ、いえ、いえ、なんでもありません」
「そうか?」
ナターリエは「気をつけよう」と思いながら、背筋を伸ばした。
(折角のお祭りですから、昨日のことは忘れて楽しみましょう……ええっと、ヒース様からの、その……あれも……忘れて……)
第二王子との婚約のことはともかく、そちらを忘れるのは少し難しそうだ、とナターリエは思う。ちらりとヒースを見れば、彼はいつも通りに見え、まるでプロポーズをしたことを忘れているのではないかと思えてしまう。
「ヒース様、お疲れ様です」
道行く兵士2人が頭を下げる。
「おう。巡回か? ご苦労だな」
「はい。町の中央部に人が集まっていますので、勿論そちらにも多く派遣されておりますが、人が少なくなっているエリアにも巡回を増やしています」
「ああ、大変だと思うが頼むぞ」
「はっ」
ヒースはそう言って歩きつつ「なんか悪い気がしてくるんだよなぁ」と苦笑いを浮かべる。
「まあ、姉貴からチケットもらったから、その分は遊んで帰るか」
「そうですね。ああ、賑やかな声がここまで届いていますね。何があるのかしら……?」
やがて、人々が集まる祭りの中心部に2人は出た。予想以上の喧噪に驚く。
「まあ、まあ、人が沢山集まっているわ!」
「凄いな。この町、こんなに人がいるのか」
これにはヒースも予想外だったようで、声をあげる。
町の中心にある広場には露店が集まり、道行く人の活気もある。こういう日は浮ついてしまうが、町を巡回する兵士たちの数は多い。きっと、関所も国境の詰所も、祭りの間は人が多いに違いない。
「あれは何ですか?」
「うん? あれは、肉を詰めたパイだな。この辺ではよく食べるが」
「そうなのですね」
「……食べるか?」
「はい! はい!」
二度返事をするナターリエ。露店に並んでいるパイは手でそのまま食べられるように紙で包まれている。ヒースがチケットを2枚使って2個買い、ナターリエに渡す。
「わあぁぁぁ」
ナターリエは両手でパイを持って、じいっと見つめる。
「凄いです。こんな風に、買い食い……と言うんでしょうか? それをすることは初めてです!」
「そうか。ハーバー領ではこういう祭りはないのか」
「ありますが、買って食べるということはなかったです。これは、えっと、食べながら歩く……?」
「それも悪くないが、あそこが空いている。座ろう」
ヒースは広場の噴水を指さした。普段は子供たちがその辺りでわいわいと遊んでいるが、今日はみな露店を覗いているのか、噴水の台座が空いていた。