魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
21.ハーバー伯爵邸
王城からそのまま再度リントナー領に戻ることも可能だったが、ずっと留守にもしていたし、報告も必要だろうからということで、彼らはハーバー伯爵家に行った。竜舎はないので、魔獣研究所に飛竜を預け、馬車を借りる。
ハーバー家に着けば、家族が全員揃っており、みな大喜びでナターリエを迎えた。きっと話が伯爵に来ているのだろうと思って、ナターリエが様子を窺うと「ついさっき、陛下からの使者がやってきた」と父親であるハーバー伯爵は苦々しそうに言った。
「そもそも婚約破棄はしていた……ということになっていたのでな。現状維持ということで」
それはそうだ。第二王子からの婚約破棄を受けたことは噂であっという間に広がっていた。今更それを「そうではありませんでした」と噂を流す必要もない。なんにせよ、婚約破棄(仮)の(仮)がなくなっただけだ。
「まあ、折角だし、今晩は泊っていくといい。そのう、我らとしても、ナターリエが突然いなくなって、少しばかり寂しかったのでな……」
存外ハーバー伯爵は素直にそう言った。確かにナターリエ自身はけろっとしていたが、彼女はこの家から出て、どこかに宿泊をしたことがほとんどなかったと言う。
(その割に、まったく気にせずに過ごしているようだったな……)
そこで、彼女のマイペースさが実は相当なものだとヒースはようやく気付くのだが、当の本人はきょとんとしている。
「まあ、もし、第二王子から婚約破棄されなければ、もう次は結婚してこちらに戻ることもなかったでしょうに、そう思えば別に……」
それはそうだ。少なくとも第一王子が王位を継ぐまでは、彼女は王位継承者の妻として王城に囲われることになっただろう。が、ハーバー伯爵は「んっ、んん」と咳ばらいをして
「それとこれとは別だ。お前は家族のことをわかっとらん!」
と言った。それへ、母親である伯爵夫人も頷いて
「そうよ? まあ、あなたの安全はリントナー辺境伯のご子息が守ってくださるということだったので、安心はしていたけれど、魔獣相手のお仕事なんだから心配だってするでしょう。だってのに、全然手紙も何もくれないんだもの」
「あっ、お手紙。そうか。お手紙というものがありましたね!?」
まるで今初めて気付いたようなナターリエ。ヒースはそれに苦笑いを見せた。
「申し訳ありません。もう少々リントナー領で仕事をご依頼したくて。今後は、その、手紙でも」
それへは、妹であるカタリナが答えた。
「でも、どうせお姉様のことだから、手紙にだって魔獣のこととか書くんじゃないのかしら。そういうことじゃないわよ?」
「えっ、だって、元気にやっています、以外のことと言ったら、魔獣のことしか……」
そうナターリエが答えて、その場の人々はどっと笑ったが、言われた本人は何故みなが笑うのかわからないようで、少しばかり唇を尖らせた。
ハーバー家に着けば、家族が全員揃っており、みな大喜びでナターリエを迎えた。きっと話が伯爵に来ているのだろうと思って、ナターリエが様子を窺うと「ついさっき、陛下からの使者がやってきた」と父親であるハーバー伯爵は苦々しそうに言った。
「そもそも婚約破棄はしていた……ということになっていたのでな。現状維持ということで」
それはそうだ。第二王子からの婚約破棄を受けたことは噂であっという間に広がっていた。今更それを「そうではありませんでした」と噂を流す必要もない。なんにせよ、婚約破棄(仮)の(仮)がなくなっただけだ。
「まあ、折角だし、今晩は泊っていくといい。そのう、我らとしても、ナターリエが突然いなくなって、少しばかり寂しかったのでな……」
存外ハーバー伯爵は素直にそう言った。確かにナターリエ自身はけろっとしていたが、彼女はこの家から出て、どこかに宿泊をしたことがほとんどなかったと言う。
(その割に、まったく気にせずに過ごしているようだったな……)
そこで、彼女のマイペースさが実は相当なものだとヒースはようやく気付くのだが、当の本人はきょとんとしている。
「まあ、もし、第二王子から婚約破棄されなければ、もう次は結婚してこちらに戻ることもなかったでしょうに、そう思えば別に……」
それはそうだ。少なくとも第一王子が王位を継ぐまでは、彼女は王位継承者の妻として王城に囲われることになっただろう。が、ハーバー伯爵は「んっ、んん」と咳ばらいをして
「それとこれとは別だ。お前は家族のことをわかっとらん!」
と言った。それへ、母親である伯爵夫人も頷いて
「そうよ? まあ、あなたの安全はリントナー辺境伯のご子息が守ってくださるということだったので、安心はしていたけれど、魔獣相手のお仕事なんだから心配だってするでしょう。だってのに、全然手紙も何もくれないんだもの」
「あっ、お手紙。そうか。お手紙というものがありましたね!?」
まるで今初めて気付いたようなナターリエ。ヒースはそれに苦笑いを見せた。
「申し訳ありません。もう少々リントナー領で仕事をご依頼したくて。今後は、その、手紙でも」
それへは、妹であるカタリナが答えた。
「でも、どうせお姉様のことだから、手紙にだって魔獣のこととか書くんじゃないのかしら。そういうことじゃないわよ?」
「えっ、だって、元気にやっています、以外のことと言ったら、魔獣のことしか……」
そうナターリエが答えて、その場の人々はどっと笑ったが、言われた本人は何故みなが笑うのかわからないようで、少しばかり唇を尖らせた。