魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
22.そして再び日常が始まる
 リントナー領に戻って来たヒースとナターリエは、すぐにリントナー家に行った。ヒースの家族に報告をすると、これまた大喜びをしてもらえて、ほっとするナターリエ。たった一晩で話が動き、たった一晩明けての行動力。ヒースとナターリエ、どちらもそれは「あっていた」様子だ。

 とはいえ、婚礼の話はまだ置いて、ひとまずは婚約者に、という話になった。そして、ナターリエはとりあえず、リントナー領での仕事をそのまま継続をする、ということだった。

「あらあらあらあら、本当におめでたいわ!!」

 リントナー辺境伯夫人は、今日も圧が凄い。が、そのことはリントナー辺境伯家の者はみなわかっているようで、辺境伯夫人を抑えるように「ちょっと前に出すぎです」とブルーノが言う始末。

「あら、ごめんなさい。だって、本当に嬉しいんですもの。ヒースにこんな可愛いお嫁さんが、ええ、まだ婚約者ってことなのはわかってるけど……ねえ~~! わたしのドレスのモデルをしてくださらないかしら? もう、今からワクワクするわ……」
「ヒースの婚約者であって、お前のモデルではないからなぁ~」

 と答える辺境伯。話をしていると、アレイナが部屋に入って来た。彼女は、長い時間話をまだ聞けないため、あえてこの家族会議の場に呼ばれなかったのだが、自らやって来てしまったようだ。その辺、リントナー辺境伯邸はどうにも緩い。緩いが、それをナターリエは悪いとは思わない。

「あっ、お姫様!」
「こんにちは、アレイナ様」

 すっかりアレイナにとってナターリエは「お姫様」らしい。

「ねぇ、庭園に行こう! 庭園で、お花見るの!」
「おいおい、アレイナ、ナターリエにはそんな時間は……」
「ヒース様、折角ですし、少しぐらいお時間いただいても?」
「ううん、ナターリエが良いなら……」

 辺境伯もそれはあっさりと許可をして「アレイナの世話を申し訳ないね」と言った。おおよその話は終わっている、という意味だ。ナターリエは立ち上がって「失礼します」と一礼をしてから、自分の手を引くアレイナについてリントナー家の庭園に向かった。

「やったじゃないか、第二王子は大丈夫だったのかい?」

 ナターリエが部屋から出てから、ベラレタがヒースに尋ねた。

「ああ、うん……詳細をナターリエは言わないんだが……姉貴が言っていた通りだったようだな」
「そうかい。第二王子とナターリエ嬢が話をしたのか」
「ああ。それで、第二王子から改めて婚約破棄を通すように国王陛下に進言をしてくれて……いや、本当に助かった。それがなければ、きっとナターリエ嬢は第二王子と復縁をしていた」

 そう考えれば、心から第二王子には感謝をしなければいけない、とヒースは思う。だが、それを彼自身が形にすれば、第二王子はきっと嫌がるだろう。きっと、そういう人となりだ。

「第二王子は飛竜を気に入ったらしい」

 と、辺境伯が言い出す。

「そうなのか?」
「ああ。だから、リントナー家から、飛竜を一体、第二王子に届けよう。竜舎の建築も勿論つけて。それから、王城側にいる飛竜騎士団に依頼をして、第二王子に騎乗の訓練をしてもらおう。それが、こちらからの礼だとわかるだろう」
「そうか。ありがたい。親父、頼まれてくれるか」
「任せておけ。いや、本当によかった。ついでにベラレタ、お前もそろそろ結婚してみたらどうだ」

 その、まるで結婚をお試しのように言う辺境伯の物言いに、あっはっは、とベラレタは大きく笑った。それから、ヒースに

「一緒に式でもやるかい?」

 と言い、ヒースに「それだけは勘弁してくれ」と苦笑いをされた。どうやら、ベラレタの結婚はまだまだ時間がかかるようだ。
< 80 / 82 >

この作品をシェア

pagetop