魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う
「アレイナ様、わたし、ヒース様の婚約者になるんです」
「こんやくしゃ?」
「はい。いつか、お嫁さんになるんです」

 庭園をアレイナと共に歩いていたナターリエはそう打ち明けた。すると、アレイナは不思議そうな顔でナターリエを見上げて

「お嫁さん? 誰の?」
「ヒース様の」
「ええっ!? ヒースお兄ちゃん、結婚できるの!?」

 それはどういう意味だ、とナターリエが目を丸くすると、アレイナはバタバタバタ、と足踏みをして驚きを表す。

「だって、お姉ちゃんと、ヒースお兄ちゃんは、結婚出来ないんだと思っていた!」
「あら。ベラレタ様も、ヒース様も、出来ますよ?」
「本当に?」

 そう言うとアレイナは、近くにあったピンクの花を子供の手でねじり切る。あまりよろしくないことだと思いながらも、ナターリエがその様子を見ていると

「お姫様にこれあげる」
「まあ、いいんですか?」
「うん。おめでと! 結婚は、お祝いするって聞いたから」
「ありがとうございます」

 そう言って花を受け取るナターリエ。すると、そこにヒースがやって来る。

「お兄ちゃん!」
「アレイナ、悪いが、そろそろナターリエを返してくれ」
「えぇ……」

 アレイナは嫌そうに、ナターリエのドレスにぎゅっとしがみついた。ナターリエは微笑む。

「また、こちらに来ますよ」
「本当に?」
「はい。本当です。これは、絶対に」
「じゃあ、しょうがないからお兄ちゃんに返してあげる……」

 渋々といったアレイナの様子に、ヒースは「おいおい!」と叫んで、ナターリエの手を少し強引に握った。

「俺のだぞ」
「ええ~……」

 もう片方の手を握ろうとしたアレイナだったが、ナターリエは彼女が渡した花を手にしていて、片手しか空いていない。

「お兄ちゃんがお姫様とったぁ~~~!!!!」

 アレイナはそう言って庭園をかけていく。きっと、その先にはブルーノがいるのだろうが、ヒースは「放っておけ」とナターリエに笑った。

「ヒース様は、大人げないですね」
「うん。俺は、大人げがないんだ」

 そう言うと、ヒースはナターリエを上から覗き込み、それからあっさりと彼女の頬にキスをする。挨拶の一つのような軽いキスだったが、ナターリエは頬を真っ赤にして「ずるいです」と言った。

「ははは」
「ヒース様が、こ、こんなこと、簡単にする人だとは思っていませんでした……!!」
「そうか? 俺は、案外素直なのでな……キスしたいと思えば、すぐするぞ」

 そう言って、ヒースはナターリエをもう一度覗き込んだ。ナターリエは一瞬体を強張らせたが、すぐに瞳を閉じ、近づいて来る彼の唇を受け入れる。

 リントナー辺境伯邸の庭園で、優しいキスをする2人。唇が離れると互いに目線が絡み、それからどちらともなく照れくさそうに微笑んだ。
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