「とりあえず俺に愛されとけば?」





「佐倉さんって、体温高いですよね……」

「なにそれ、誘ってんの?」

「ち、違います!」

「じゃあ、照れてんの?」

「違います!」




先ほどまでの営業スマイルはどこに置いてきたのか。これが本当の佐倉さんですよとSAKURAの従業員に教えてあげたい。




「あの、そろそろ離していただけませんか?」

「じゃあ、離してやるから俺と付き合え」

「そんな脅迫聞いたことありません」

「脅してないだろ、言い寄ってるだけ」

「な、」



とんでもない爆弾を投下され言葉が詰まる。

どこまでが本気で一体どこまでがおふざけなのか。言い寄ってるだけって、自分がなにを言ってるか分かってるのだろうか。


そんな本気みたいな声音で言わないでほしい。心臓がうるさい。密着しているこの状況でこのどきどきがバレなければいいと願った。


てか、どきどきするな私。




「抱きしめ作戦大成功だな」

「え、」

「静かになった」

「な、」




「んー」と下から睨みをお見舞いすれば、暗闇の中、佐倉さんの顔が建物の光に照らされて、キラキラして見える。でも、目尻を垂らして微笑んだその表情がやっぱりどこか悲しげで私まで泣きそうになった。


と、




「なんで、俺が泣きそうか分かったか?」

「……いいえ、全く」

「バカ、だな」

「いきなり失礼です」

「だってそうだろ」




佐倉さんは「しょうがないな」と呟くと、ぽんぽんとまるで子供をあやすみたいに私の背中を規則的に優しく叩く。




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