極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
「じゃあ、私がいるときならなにかサービスするね」


笑顔を向けると、樹くんも微笑んでくれた。直後、彼が眉をわずかに寄せた。


「芽衣、ちゃんと髪乾かさなかっただろ」

「え? あ、えっと……今日はちょっと面倒になっちゃって……」


ずぼらだと思われたかもしれない。
急に恥ずかしくなって視線を逸らしかけたとき、おもむろに伸びてきた大きな手が私の髪に触れた。


「まだ結構濡れてる。暖かくなってきたけど、風邪ひくぞ」

「大丈――」


明るく努めようと反射的に顔を上げた瞬間、ふと瞳がぶつかった。


真っ直ぐな双眸が、じっと見つめてくる。それはまるで、私の心の中に入り込もうとしてくるみたいだった。


水族館に公園、そして朝から夜までの三回分の食事。思い出話で盛り上がっていたさっきまでの時間が、もうずっと前のことのように思える。


なんだか急に緊張が込み上げてきて、あんなにはしゃいでいたのが嘘のように身の置き場がなくなった。

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