極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
四章 『好き』なんて今さら言えない
ゴールデンウィークが過ぎ、怒涛の業務量だった仕事も通常通りに戻った。


連休中は普段よりもスタッフを多めに配置していたにもかかわらず、開店から閉店時刻まで客足が途切れなかったせいで常に人手が足りなかった。


「ゴールデンウィークが終わった途端、ラクになったね。これがいつも通りなんだけど、連休の空港があんなに大変だとは……」


繁忙期の羽田空港の洗礼を受けた私に、この店舗で三年以上働いているアルバイトスタッフが苦笑を零す。


「本当にきついですよね。でも、香坂さんはスムーズにオーダーを捌いてましたし、すごいですよ。私なんて、ここに来て一年目のときは失敗ばかりでしたから」

「そんなことないよ。結構必死だったし」


羽田空港店に配属されて、約一か月半。
同じだけの期間、同僚から『香坂さん』と呼ばれているのに、まだ慣れなくて心が少しだけむず痒くなる。うっかり返事をし損ねることもあるくらいだ。


結婚したことは、家族と親族、前の職場のスタッフと身近な友人にしか報告していない。
今の同僚とは軽くプライベートについて話すことはあるものの、結婚と異動の時期が重なったこともあって、私からは既婚者だということしか話していなかった。

< 66 / 143 >

この作品をシェア

pagetop