極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
ときどき、樹くんも私を好きになってくれたんじゃないかと、勘違いしそうになることがある。


その最たる理由は、ただ一緒に眠るだけの夜もあるから。
キスをしても体を重ねることはなく、身を寄せ合うようにして彼の腕の中で眠りに就く。


疲れていて〝しない〟だけなら、別に一緒に寝なくてもいいのに……。それでも自分のベッドに私を誘う樹くんに、想われている気がしてしまう。


もちろん、それは都合のよすぎる解釈だとわかっているけれど……。


「芽衣……」


今夜も優しく名前を呼ばれて、甘いキスを贈られて。やっぱり喜びに包まれた胸の奥が、甘切なく戦慄く。


キスをして、素肌を触れ合わせ、体を重ねて……。夜が甘ければ甘いほど、私は戸惑いながらも彼に囚われていき、朝になって迎える現実に少しだけ傷つく。


小さな傷は徐々に深くなっていき、もう簡単には塞がりそうにない。
それなのに、樹くんに抱かれると嬉しくて、彼の腕の中で過ごす幸せな夜から逃れられなかった――。

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