初夜で妻に「君を愛することはない」と言った私は、どうやら妻のことをめちゃくちゃ愛していたらしい



 唖然とする私に、神妙な顔をした妹二人が口を開く。

「最近、貴族令嬢の間で流行りの書物です」
「流行ってるのか!?」
「そうですわ。兄様も内容が気になるでしょう?」
「それは、……いや、だが、こんな私が言ったことをなぜ……予言書……」
「いやいや、だから流行りの書物ですって! お兄様のことなんか誰も知りませんわよ」

 混乱の極みにある私に、妹達がツッコミを入れる。
 その本を手に取り、パラパラと読むと、非常に共感し難い内容が記載されていた。

「なんだこれは。なぜサプライズのように、婚儀の直後で疲労困憊の中、このようなことを言うんだ? 愛することがないなら、初夜ではなく婚約時に話し合うべきではないのか」
「お兄様、ブーメランで惨殺死体が出来上がっていますわ」

「なぜこんなにも、同じような内容の書物が……」
「物語の起点に頻繁に使われるほど、異常な台詞だってことですわよ」

 妹の言葉に、私は後ろ手に殴られたような衝撃を受ける。

「お兄様はそれだけのことをしたの。ここまで断罪はされないにしても、普通に離縁はありえる内容よ」
「そ、そんな……」
「そんなじゃないわ。大体ね、兄様はステファニーお義姉様に甘えすぎなのよ! お義姉様が好き好き言ってくれているからって、あぐらをかいて、自分からは全くアプローチしたことはないでしょう」
「……」

 言葉もない私に、妹達は氷のような目線を送るのみだ。

「その本をよく読んで、反省して」
「お義姉様が何を望んでいるのか、ちゃんと考えながら行動するのよ!」

 そう言って押し付けられた本を手に、私は項垂れたまま家に帰った。


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