初夜で妻に「君を愛することはない」と言った私は、どうやら妻のことをめちゃくちゃ愛していたらしい



 けれども、この時の私はまだ、本当に納得した訳ではなかったのだ。

 いや、もちろん、ステファニーに悪いことをしたとは思っている。

 ただ、心の防衛本能で、自分にはまだ情状酌量の余地があると思っていたのだ。


(本当に、ここまで非難されるようなことなのか? 物語だから、面白おかしく脚色しすぎているんじゃ……)


 妹から借りてきた本では、夫達は初夜の失言の後、奴隷落ちしたり物乞いになったり不能になったり処刑されたりしていた。

 果たして、そこまでされる程の大罪なのだろうか。

(きっと妹達が、私を懲らしめるためにわざと過激な本を選んだに違いない)

 私は自分の精神の安定を保つために、自己弁護の理屈ばかりをこねくり回す。

 そうだ、ステファニーはなんだかんだ、私のことが好きなんだ。

 私が誠心誠意謝れば、すぐに許してくれるはずだ。

 そんなことを思っていると、足元からニャーンと可愛い声が聞こえる。

「エリザベス、おいで」

 エリザベスはうちの飼い猫で、真っ白な毛並みに水色の瞳の猫だ。

 私が呼ぶと、エリザベスはととっと優雅な動きで私のベッドの上まで登ってきた。

 私は丸まった彼女の毛並みをゆっくりと撫でる。
 その艶やかな毛並みと温かさに、私はほうとため息をつく。

「お前もステファニーが居ないと寂しいよな?」
「なーん?」
「そうかそうか、そうだよな。任せろ、私が連れ戻してくるからな」
「にゃふ?」

 私は首をかしげるエリザベスを撫でながら宣言する。

 そう、そんなことを言えるほど、この時の私はまだ余裕綽々だったのだ。



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