初夜で妻に「君を愛することはない」と言った私は、どうやら妻のことをめちゃくちゃ愛していたらしい


「ステファニー!」
「えっ、何っ……えええ!?」

 朝食前に私は、ステファニーの部屋を訪ねて入室の許可を得る。
 そして、ドアを開けるなりズンズンと足を踏み鳴らし、目的のものに向かって一直線に進んだ。

「な、何をしに来ましたの?」
「ステフ」
「は、はい」
「これが、なんだか分かるか」

 私は部屋の中にあったあるものを見せながら、ステファニーに問いかける。

「わ、わたくしの枕ですが……?」

 心底不思議そうな顔をしているステファニーに、私は満足げに頷く。

「そうだ。私の大切な宝石、ステファニー。君の枕だ」
「は、はあ……」
「私は君のように愛情深い人間になりたい。だからこれは、必要なことなのだ」
「え?」

 ステファニーがどのような愛情表現をしていたか過去を振り返っていた私は、唐突に気がついたのだ。

 ステファニーは枕をスハスハするだけではない。

 その姿を私に見せつけていた!

 なんということだろう、私は枕をスハスハしただけで、ステファニーを理解したような気になっていたのだ。

(私は己が間違いを正す!)

 私はステファニーの枕を抱きしめると、彼女に見せつけるようにその枕に……身を寄せた。

「ス、ステファニーの枕は花の香りがする……!」
「……!!??」

 ドヤっとキメ顔を見せたところで、真っ赤な顔をしたステファニーに、枕を取り戻されてしまった。

「あっ、私の宝物が」
「何を考えて! いるん! ですのおお!!」

 ステファニーは珍しく年頃の娘のように取り乱していた。ぽこぽこと叩かれ、頬を何度もつねられたが、その可愛い反応に私は頬が緩む一方である。
 私はふと、図体の大きさを生かしてステファニー自身を抱きしめてみた。
 美しく可憐な私の金色は、すっぽりと私の腕の中に収まる。

「……!?? なにをするんですの!」
「本体の方がいい香りがする」
「!!??」

 とうとう涙目になったステファニーは、私のことを枕でバシバシ叩き、「ばか! ばか! マイケルのばか!」と散々罵倒した。

 しかし私はずっと笑顔だった。

(よ、よし! 呼び名がマイケル卿からマイケルに変わったぞ! やはり効果はあるのだ……!)

 ただし、あまりに私がニヤついていたからか、怒れるステファニーに「今日の朝食は食堂にいきません!」と30分ほど部屋に立て篭もられてしまったのは遺憾だった。

「ステファニー! 君が食堂に来ないなら、私も君の部屋で食べる!」
「無茶を言わないでくださいまし!?」
「すまないステファニー、私がやり過ぎた。君の香りはいつだってコスモスのように慎ましやかで、枕を直接こう近づけないとなかなか――」
「何を語り始めていますのぉおお!!?」

 ちなみに朝食は、激しいドア越し攻防戦の結果、間をとって私の部屋で食べることとなった。(なぜだ?)


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