初夜で妻に「君を愛することはない」と言った私は、どうやら妻のことをめちゃくちゃ愛していたらしい


 わたくしは自らの犯した失態を思い出し、恥辱で頰を染めます。

 あれはミッチーが悪いのです。
 全部全部、ミッチーが悪いのです。
 襲ってきたのはミッチーなのに、わたくしよりも驚いたような顔をして、初心な顔でわたくしを恨めし目に見ながらも、メガネの奥で揺れるベリー色の瞳には何かを期待したような色が浮かんでいて……。

(酷い罠でしたわ。なんという誘い受け。純情なわたくしが引っかかったのも無理はありませんわ)

 毒蜘蛛よりも恐ろしい罠にわたくしは引っかかってしまったのです。なんて恐ろしい男なんでしょう。あんなに……色っぽく潤んだ瞳で見つめてくるなんて……絶対に絶対に絶対に許しませんわ。例え仲直りしたとしても、沢山お仕置きが必要ですわ!!
 そして。

(あれで発情して、他の女のところに行ったなんてことがあったら)

 おそらくないだろうとは思いつつ、他の女と仲睦まじくしているミッチーを想像したわたくしは、笑顔で手元のハンカチを引き裂きます。

「わ、若奥様?」
「あらっ、いやだ。おほほほ……」

 怯える侍女達にわたくしは愛想笑いを浮かべます。
 いけませんわ、考えていることが行動に出ていましたわ。おほほほ……。

 まあしかし、おそらくミッチーは性格上、女のところに行ったりはしないでしょう。では、わたくしとの仲直りするための品を買いに?

(いえでもそうなると、侯爵家の存亡の危機イコールわたくしとの不仲ということに……?)

 ミッチーには5人も兄弟姉妹がいるのですから、例えミッチーがわたくしに振られてこれから先再婚することができず独り身で一生を過ごすことになったとしても、後継に困ることはないはずです。
 ですからこれも、きっと違うのでしょう。

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