ヴァンパイア少女の話
4玩具のカメラ





 ヴァンパイアである事は、晶にとって、重い足枷だった。

 血を飲まなければならないというのは不気味だったし、それを誇っている両親も、晶には危うく思えた。

 授業中晶は、自分がヴァンパイアじゃなくなっているという空想をした。
 
 想像の中に、自分と一緒に昴が出てきそうになったので、晶は慌てて考えるのを止めた。






 
 休み時間になって、生徒たちがパラパラと教室を出ていった。


 その日はいい天気だった。


 教室から庭へ出た晶は、壁に凭れて、体育座りをして花を眺めていた。



「あ、居た居た」



 声がして振り向くと、ガラスのドアを昴が開けた。

 昴は、晶の隣にしゃがんだ。



「よく日向に出てるのに、どうしてそんなに白いの?」



 じろじろと晶を眺める。



「女だからっていうよりは、お前は特別だね」



 ふう、と昴は小さくため息を付く。



「晶、玩具のカメラ、持ってきてやった」



 ぽい、と緑色のカメラを放ってよこしたのを、晶はあやうく取り落としそうになった。



「貸してやる。使いな。それじゃあね」



 それだけ言うと昴は教室に入ってしまった。

 教室から男子の一団が騒ぐ声が聞こえる。


 晶はカメラを手に取って、大事にハンカチに包んだ。






 文房具屋に行くと琥珀は居なかった。

 琥珀は、居る時と居ない時がある。

 別の小学校で、琥珀がどんな風に生活をしているのか、晶はよく考えたが、実はさっぱり、見当が付かなかった。

 琥珀は自分のことを話さず、いつも晶の事ばかり聞くので、琥珀の方は、逆に晶の事をよく知っているのかもしれない。

 晶は手持ち無沙汰に店の中に入って、暗い店内の数が少ない商品を眺めた。







 
 晶は、家に帰って、玩具のカメラに部屋を映してみた。

 カメラを通してみると、部屋の物が何でも全部きらきらした万華鏡の模様になった。

 晶は夢中になって、今度はキッチンを映そう、と思い立った。

 あっと思った時にはもう遅かった。

 晶は、鞄に躓いて、玩具のカメラを持ったまま、ばったーんと転んでしまった。

 かちゃん、と音がして、玩具のカメラが壊れた。















< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop