ヴァンパイア少女の話
3まるで別人




 朝。

 いつもより早く学校に着いた晶は、ロッカーに鞄を入れた。




「……でさ」

「マジで?」

「そうなんだ」




 教室の後ろに固まっている男子の一団には昴も居て、晶はなんとなく昴の方を見てしまった。
 たまたま合った目を晶は慌てて逸らし、席に着く。



 血を飲めない晶はヴァンパイアとしての力が弱く、引っ込み思案で消極的だった。



 ヴァンパイアの本を開いて見ていると、いきなりコチン、と頭に軽い痛みが走った。


 振り向くと手をグーにした昴が立っていた。



「こら。目があった時は、黙ってないで話しかける。なんで無視するんだよ。」



 晶が何か返す前に、昴は男子の一団を振り向いた。




「山上、石田、頼んでたやつあった?」

「あったあった。持って来たぜ」

「持ってきた。一杯持って来たよ」

「ありがと」




 昴は大きな袋を友達から受け取った。

 そのまま晶に袋を突き出す。




「はい。」

「?」

「着替えてきな」

「え。」

「早く。」




 昴は袋から水色のシャツを引っ張り出した。



「こういう明るい服を着な。お前の着てるの、暗すぎるよ。」



 晶が何か言う前に命令した。



「分かったらさっさと着替える。」



 晶は訳が分からないままトイレで水色のシャツを着た。

 教室に戻ると、待っていた昴は、後ろに下がって晶の洋服をチェックしてから、ぽんぽん、と晶の頭を撫でた。



「似合う似合う。」


 黙っていると昴は腕を組んで、晶にしかめっ面を作った。




「ありがとう、は?。」

「……ありがとう。」

「はい。明日も着て来な。」

「もっとたくさんあるよ、姉貴のお古。」




 友達が言った。



「ほんと?こいつにあげたいんだ、持って来て。」



 晶は席に戻った。

 水色のシャツは、薄くて肌触りが良くて、いつものゴワゴワした服と全然違う感じがした。








 晶は貰った洋服を着て登校するようになった。

 文房具屋で琥珀に声をかけると、琥珀はちょっと驚いた顔をした。




「どうしたの?その服」

「貰った」

「ふーん」




 琥珀は飲み物の小さなボトルを渡してから聞いた。




「友達できたの?」

「ううん」

「学校が一緒だったら良かったんだけど。僕以外でキミに仲良くする人が出来たら、僕はどうしようかな」




 琥珀の美しい飴色の目が、晶をじっと見つめる。




「そしたら許してあげないよ」

「そんな、」

「……嘘だよ。僕は優しいから。」




 琥珀は手を伸ばして晶の頭に軽く触れた。



「友達できて良かったね」



 琥珀が静かに言った。







 一人の部屋で、立てかけてある鏡を見る。

 今までは黒か灰色しか着なかったのに、白いシャツにオレンジのスカートを穿いた自分が映っている。

 全く別人になった気がした。

 晶は鏡に、顔を近づけておでこをぶつけた。

 








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