夜空に咲く恋
第十六話 部活(バスケ部)
朱美が蒼と颯太の距離を近づける事に協力する約束をしてから数日が経過した。朱美は蒼、颯太、玲奈を改めて紹介し、四人で連絡先の交換をした。お互いに学校内ですれ違う時には挨拶を交わし、登下校で一緒になれば雑談もする様になった。颯太の性格は基本的には生真面目で控え目であるが、打ち解ければ明るく冗談も通じる颯太の内面に蒼は次第に惹かれていった。
入学式からは二週間が経過して新入生は学校生活に少しずつ慣れ始めた頃であり、部活の仮入部期間が始まった。
「蒼ちゃん、玲奈ちゃん、おはよ」
「おはよう朱美ちゃん」
「おはよう、村上さん」
「いよいよ今日から部活開始だね。仮入部期間ではあるけど、授業が終わったらとりあえずバスケ部の見学に行かないとだね」
「そうだね、朱美ちゃん。バスケやるの久しぶりで楽しみ! でも……練習厳し過ぎてついていけなかったらどうしよう」
「蒼、それは心配いらないと思うわ。この学校のバスケ部はそんなに強くないから『目指せ全国! 練習についてこられない奴は立ち去れ!』みたいな事にはならないと思うわ」
「私もそこがちょっと心配だったけど、玲奈ちゃんの言葉を聞いて安心したよ。授業後が楽しみだね。あー、早く授業終わらないかな」
「村上さん、まだ一限目の授業が始まってもないのよ。私達学生の本業は一応勉強なのだから」
「あはは、玲奈ちゃん相変わらず鋭いー」
……という会話で始まった一日も、午後の授業が終わり終業を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。
……キーンコーンカーンコーン。
朱美、蒼、玲奈の三人は体育館へ向かう。緊張しながら扉を開け、バスケットボールを持ったバスケ部の先輩と思われる女子生徒に声をかける。
「あの、すみません。私達、バスケ部の入部……前にとりあえず見学したいと思って来たのですが」
「あら、早速見学希望者が来てくれたのね。ちょっと待っててね。今、部長を呼ぶから。松井部長―っ! 新入生の見学希望者が来てくれましたよーっ!」
「はーい!」
体育館に響く元気な声。嬉しそうな笑顔で手を挙げながら、やや大柄の女子が駆け足でやってくる。
「初めまして! 私、松井凛です。三年生でココの部長やってます」
「初めまして。一年C組の村上朱美です」
「同じクラスの三浦蒼です」
「同じく森田玲奈です」
「村上さん、三浦さん、森田さんね、よろしくお願いします。えっと、三人はバスケ経験者? それとも初心者?」
松井部長の質問に朱美が代表で答える。
「私達、三人とも中学でバスケ部でした」
「あらそう! それは頼もしいわね! なら、とりあえず今日は見学してくれたら良いと思うわ。ウチの部活は練習そんなに厳しくなくて、部の目標も『県予選で一回は勝つ』って感じかな。真剣にバスケやりたい子ならちょっと物足りない位……かも。まあ、暫くは見学と仮入部で様子を見てもらって、問題が無い様なら是非入部をお願いしたいわ」
「はい、ではまず今日は見学からよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「うんうん、元気があって良いわね! じゃ、あそこの辺りで見学しててもらえる? あ、もし手元が寂しかったらボールも持って良いわよ。ただ立って見てるだけより、ボールついてた方がしっくりくるでしょ?」
「ありがとうございます」
松井部長は近くにあったボールカゴからホイホイッ……と三人にボールをパスする。ボールを受け取った朱美、蒼、玲奈は慣れた手つきでボールを扱いながら指示された見学場所に歩いてゆく。
(あーっ、バスケのドリブルするの久しぶり! この感じ、やっぱり良いなぁ)
……と朱美が喜びを噛みしめながら歩いていた時だった。朱美は背中にのしかかる大きな重圧を感じる。
(……えっ?)
ゾッと恐怖を感じた朱美が後ろを振り返る前に……耳元で重たく囁く松井部長の声がした。
「一年C組のバスケ部経験者三人。村上さん、三浦さん、森田さん……私、あなた達の名前覚えたからね。クラスも覚えたからね。教室の場所も知ってるからね……」
(わわわっ!)
……ゴゴゴゴゴッ。
振り返って目で確認しなくても松井部長の重圧がひしひしと伝わってくる。こういう時、スポーツ選手は勘が鋭い。朱美は、部長が言わんとする事を容易に察する。
「あっ、えっと、えっと……見学する場所はあっちですよね! わ、私達! 今日は大人しく見学してまーす!」
(松井部長怖っ!)
……ダムダムダムッ!
朱美はドリブルをしながら小走りで松井部長の傍から逃げた。その一部始終を見ていた三年生の一人が松井部長に声をかけつつ、走って逃げる朱美にも声をかける。
「こらこら松井ー。いきなり一年脅してどーすんのよ! 入部者確保したい気持ちが前に出過ぎ! そこ、一年の村上さんだっけ? 大丈夫だよー。松井部長も私達もそんなに怖くないから安心して明日も来てね! バッシュ(バスケットシューズ)も持ってきてくれたら明日から練習に参加してくれて良いからねー!」
(あはは……よ、良かった。普通に優しい先輩も居た……)
朱美は優しく声をかけてくれた先輩に笑顔で会釈を返し、部活の見学を始めた。蒼、玲奈という気の合うクラスメイト、フォロー上手な優しい先輩、個性的な部長……と、楽しくなりそうな高校の部活動を想像すると、手元のボールも朱美の心も気持ちよく弾んだ。
入学式からは二週間が経過して新入生は学校生活に少しずつ慣れ始めた頃であり、部活の仮入部期間が始まった。
「蒼ちゃん、玲奈ちゃん、おはよ」
「おはよう朱美ちゃん」
「おはよう、村上さん」
「いよいよ今日から部活開始だね。仮入部期間ではあるけど、授業が終わったらとりあえずバスケ部の見学に行かないとだね」
「そうだね、朱美ちゃん。バスケやるの久しぶりで楽しみ! でも……練習厳し過ぎてついていけなかったらどうしよう」
「蒼、それは心配いらないと思うわ。この学校のバスケ部はそんなに強くないから『目指せ全国! 練習についてこられない奴は立ち去れ!』みたいな事にはならないと思うわ」
「私もそこがちょっと心配だったけど、玲奈ちゃんの言葉を聞いて安心したよ。授業後が楽しみだね。あー、早く授業終わらないかな」
「村上さん、まだ一限目の授業が始まってもないのよ。私達学生の本業は一応勉強なのだから」
「あはは、玲奈ちゃん相変わらず鋭いー」
……という会話で始まった一日も、午後の授業が終わり終業を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。
……キーンコーンカーンコーン。
朱美、蒼、玲奈の三人は体育館へ向かう。緊張しながら扉を開け、バスケットボールを持ったバスケ部の先輩と思われる女子生徒に声をかける。
「あの、すみません。私達、バスケ部の入部……前にとりあえず見学したいと思って来たのですが」
「あら、早速見学希望者が来てくれたのね。ちょっと待っててね。今、部長を呼ぶから。松井部長―っ! 新入生の見学希望者が来てくれましたよーっ!」
「はーい!」
体育館に響く元気な声。嬉しそうな笑顔で手を挙げながら、やや大柄の女子が駆け足でやってくる。
「初めまして! 私、松井凛です。三年生でココの部長やってます」
「初めまして。一年C組の村上朱美です」
「同じクラスの三浦蒼です」
「同じく森田玲奈です」
「村上さん、三浦さん、森田さんね、よろしくお願いします。えっと、三人はバスケ経験者? それとも初心者?」
松井部長の質問に朱美が代表で答える。
「私達、三人とも中学でバスケ部でした」
「あらそう! それは頼もしいわね! なら、とりあえず今日は見学してくれたら良いと思うわ。ウチの部活は練習そんなに厳しくなくて、部の目標も『県予選で一回は勝つ』って感じかな。真剣にバスケやりたい子ならちょっと物足りない位……かも。まあ、暫くは見学と仮入部で様子を見てもらって、問題が無い様なら是非入部をお願いしたいわ」
「はい、ではまず今日は見学からよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「うんうん、元気があって良いわね! じゃ、あそこの辺りで見学しててもらえる? あ、もし手元が寂しかったらボールも持って良いわよ。ただ立って見てるだけより、ボールついてた方がしっくりくるでしょ?」
「ありがとうございます」
松井部長は近くにあったボールカゴからホイホイッ……と三人にボールをパスする。ボールを受け取った朱美、蒼、玲奈は慣れた手つきでボールを扱いながら指示された見学場所に歩いてゆく。
(あーっ、バスケのドリブルするの久しぶり! この感じ、やっぱり良いなぁ)
……と朱美が喜びを噛みしめながら歩いていた時だった。朱美は背中にのしかかる大きな重圧を感じる。
(……えっ?)
ゾッと恐怖を感じた朱美が後ろを振り返る前に……耳元で重たく囁く松井部長の声がした。
「一年C組のバスケ部経験者三人。村上さん、三浦さん、森田さん……私、あなた達の名前覚えたからね。クラスも覚えたからね。教室の場所も知ってるからね……」
(わわわっ!)
……ゴゴゴゴゴッ。
振り返って目で確認しなくても松井部長の重圧がひしひしと伝わってくる。こういう時、スポーツ選手は勘が鋭い。朱美は、部長が言わんとする事を容易に察する。
「あっ、えっと、えっと……見学する場所はあっちですよね! わ、私達! 今日は大人しく見学してまーす!」
(松井部長怖っ!)
……ダムダムダムッ!
朱美はドリブルをしながら小走りで松井部長の傍から逃げた。その一部始終を見ていた三年生の一人が松井部長に声をかけつつ、走って逃げる朱美にも声をかける。
「こらこら松井ー。いきなり一年脅してどーすんのよ! 入部者確保したい気持ちが前に出過ぎ! そこ、一年の村上さんだっけ? 大丈夫だよー。松井部長も私達もそんなに怖くないから安心して明日も来てね! バッシュ(バスケットシューズ)も持ってきてくれたら明日から練習に参加してくれて良いからねー!」
(あはは……よ、良かった。普通に優しい先輩も居た……)
朱美は優しく声をかけてくれた先輩に笑顔で会釈を返し、部活の見学を始めた。蒼、玲奈という気の合うクラスメイト、フォロー上手な優しい先輩、個性的な部長……と、楽しくなりそうな高校の部活動を想像すると、手元のボールも朱美の心も気持ちよく弾んだ。