夜空に咲く恋

第十七話 部活(映像写真部)

 朱美達が体育館でバスケ部の仮入部と見学をしていた頃、颯太も仮入部をすべく映像写真部を訪ねていた。

「あの、こちらは映像写真部ですよね? 見学に来ました、一年F組の坂本颯太です」

「おお! 仮入部開始の日から早速一年生が来てくれるとは嬉しいな。初めまして。俺は映像写真部部長、三年の石原(たくみ)。よろしく……で、あっちのパソコンで映像編集してる子が二年の木下さん」

「こんにちは。二年の木下(きのした)(あん)です。よろしくお願いします」

 扉を開けた颯太に対応してくれたのは三年生で部長の石原匠。背は高めでヒョロっとしたスリムな体形の持ち主で気さくな挨拶が社交的な雰囲気を感じさせる。もう一人、パソコンの前に座る二年生の木下杏。やや小柄で挨拶をしても愛嬌は振りまかず、澄ました顔で作業を続けるクールな雰囲気の女子だ。

 入り口で立ち止まる颯太に石原部長が声をかける。

「とりあえず中へどうぞ。ところで坂本君はココの部活内容は知ってるかい?」

 颯太は誘導のまま部屋の中に入り、石原部長と話をする。

「ありがとうございます。部活の内容はある程度知っています。校内イベントで写真や動画の撮影、それを編集して校内SNSで配信。あと、映像や写真のコンクールがあれば応募したり……ですよね」

「うん、良いね。メインの活動はその二つと……もう一つ。地域社会部との連携活動」

「はい、俺がこの部活で一番興味あるのはそれです」

 颯太が通う私立岡崎中央商業高校には地域社会部というものがある。就職希望学科に在籍する生徒の中から有志の者で行われる『地域社会交流活動』を行う組織である。

 その内容は「地域の人々と文化事業交流を行い、社会に役立つ人材として成長する」とう理念の下に行われる活動で、具体的には地元企業の交流や見学、取材、広報の支援活動を行っている。また、快く協力してくれる企業や商店等の中には学生とのコラボ商品を製作販売している所もある。

 映像写真部はこの地域交流活動と深い関わりを持っている。地域社会交流活動で一緒に取材をしたり、そこで行われた撮影素材や取材情報を編集して学校内SNSに配信を行ったりもする。

「そこまで知ってくれているのなら話が早いね。説明の手間が省けて助かるよ。ところで、今まで俺達が作った校内SNSの配信動画は観た事ある?」

「はい、去年一年間に作成された動画は入学してから全て観ました!」

 事前にできる準備は怠らない……真面目な性格の颯太である。

「おお! それはまた優等生だね。俺なんて、楽そうな部活が良いなあ……と思って何となく入部しただけなのに」

「部長、せっかくの新入生が幻滅するような事は言わないで下さい」

 カチカチとパソコンの操作をする木下からツッコミが飛ぶ。

「ははっ、ごめんごめん。木下さんのツッコミはいつも的確だなあ。俺は写真や映像を撮影する方が好きだけど、木下さんは主に編集担当でね。坂本君も画像の加工や動画の編集は彼女に教わる事になると思うから、そっちを担当する時はよろしく」

「分かりました。石原部長、木下先輩、よろしくお願いします!」

 颯太はこの後、映像写真部員の紹介や詳しい活動内容などの説明を受け下校時間を迎えた。一方、バスケ部の見学を終えた朱美、蒼、玲奈の三人も下校時間になり、校門を出る。久しぶりにバスケットボールに触れた女子高生三人のテンションは上がっている。

「あー! やっぱりボール持つと楽しいね。私、明日はバッシュ持って行こ。先輩達を見てたら私もバスケしたくなっちゃった」

「朱美ちゃんも? 私も一緒! もう、身体がうずいちゃって」
「私もよ。今日は楽しい一日になったわね」

「うんうん。あっ、そうだ! 楽しかったついでに今日は私が好きな和菓子屋の『せんわ堂』に寄ってかない? 美味しいお饅頭食べられるよ!?」

「あら、良いわね。村上さんの話を聞いて私も一度行きたいと思っていたの」

「うん! 私も行きたい! 朱美ちゃん、案内してもらえる?」

「オッケー、任せて! せんわ堂なら目を閉じていても行けちゃうから!」
「あははっ。朱美ちゃん、何それーっ!」

 女子高生三人の明るい声がせんわ堂に到着する。昔ながらの商店街通りに佇む小さな店。入り口に掲げられた「生菓子・しるこ」と表示された暖簾が老舗の雰囲気を漂わす。

「すごーい! 風情のあるお店だね。老舗の和菓子屋さん! って感じ」

「素敵な雰囲気のお店ね。岡崎城のお膝元にある老舗で和菓子を堪能……っていうのも悪くないわね」
「でしょ? 私も颯太も家族皆で好きなお店! さ、中に入ろう!」

 道路に面した店頭販売のスペースを抜け、店内の飲食席へ入る。店内の壁には、みたらし団子、まんじゅう、ういろう、おはぎ、ところ天、しるこ……と木の札に書かれた魅力的な甘味のラインナップが並び、レジ横ではファンが多い名物のおでんが良い香りを漂わせている。まずは店に慣れている朱美が率先して注文する。

「私が好きなのは味噌饅頭だけど、他のどれを食べても美味しいよ。すみませーん! 私、味噌饅頭とみたらし団子、お願いします!」

 玲奈、蒼も続く。

「本当にどれも美味しそうで迷うわね。おでんも気になるけど……私は、かりんとう饅頭とみたらし団子、お願いします」

「あーん! 私、迷っちゃうよー!? どら焼きも良いなぁ! あんみつもあるのっ!? でもイチゴ大福も食べたいし! ええっ!? よくばりイチゴ大福って何っ!?」

 蒼は両手を頬に当て、首を左右にブンブンと振りながら幸せな和スイーツの世界に迷い込む。

「蒼、早く決めなさい。全部食べられる訳じゃないんだから」
「あーん、玲奈! この幸せな時間に私をもっと長く居させてよーっ!」

「ダメよ。早くしなさい」
「玲奈ってば残酷! じゃぁ、私は……このっ、田舎しるこ! 名前が気になっちゃう!」

 三人はそれぞれ会計を済ませ、セルフサービスのお茶と共に席に着く。程なくして蒼が注文した田舎しるこが席に運ばれ、和スイーツを囲んだ女子高生トークが始まった。
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