忘却の天使は溺愛に囚われて
ふと視線が交わる。
朔夜さんのどこか余裕のない表情に、思わず笑みをもらした。
それと同時に何か生温かなものが頬を伝い……ふと、朔夜さんが動きを止める。
驚いたような表情を浮かべながら。
「……え」
互いに乱れた息を整えながら、私は自分が涙を流していることに初めて気がついた。
「あれ、どうして私泣いて……」
わからないけれど、胸が苦しい。
静かに涙を流す私を、朔夜さんはそっと抱きしめてくれた。
「……泣くな」
「ごめ、なさ……どうしてかわからなくて……もちろん今のが嫌だったわけじゃ」
「わかってる。むしろ求めてたしな?」
「……っ」
意地悪な発言に、ぶわっと顔が熱くなる。
そうだ、確かに私は朔夜さんを求めていた。
途端に苦しさが消え、今度は羞恥心で泣きたくなった。
「……体は覚えてんのかもな」
「え……」
「そろそろ寝るか? 明日も予定があるんだろ」
「あ……はい」
これで終わりかと思うと少し寂しかったけれど、そう考えてしまう自分が恥ずかしくなり、慌てて朔夜さんから離れた。