忘却の天使は溺愛に囚われて

「……っ、あの」
「どうした?」
「手が……」

 頬を指で撫でられ、どんどん熱を帯びていく。
 これ以上はダメなのに……ここで受け入れてしまったら、近づいてしまったら、自分が苦しくなるだけなのに。

 ドキドキするあまり、抵抗だとか逃げようだとか一切考えられなくて、目の前の朔夜さんで頭がいっぱいになる。
 
 朔夜さんの顔が近づいてきて、私はゆっくりと目を閉じる。
 その後すぐに、唇が重なり合った。

「ん……」

 徐々にキスが深くなっていく。
 こんなの初めてのはずなのに、どうしてだろう。

 息継ぎだったり、朔夜さんのキスが深くなるタイミングが自然とわかり、それに合わせている自分がいた。

 不思議な感覚だった。
 このキスをを私は知っているような、そんな感覚。

 気づけばさらに求めていて少し口を開けば、待っていたかのように互いの舌が絡まり合い……何故だか胸が締め付けられ、泣きそうになった。

 きっと息が苦しいせいだと言い訳して、しがみつくように朔夜さんの背中に手をまわす。
 これは合図のようなもので、さらに甘い時間が待ち受けているだろう。

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