忘却の天使は溺愛に囚われて


 すると黒い手袋をしていた男の手が伸び、私の頬に触れた。
 優しい手つきだった。

 ゆっくりと目を開けると、なぜか男は切なげに私を見つめている。
 その理由などわかるはずもなく、私は助けてもらえて安心したのか、気づけば涙を流していた。

「……カンナ」

 男の低い声は心なしか震えていて、苦しそうだ。
 その姿になぜだか胸が締め付けられる。

 けれど……今、カンナって言わなかった?
 誰のことを言っているのだろうと思ったその時。

「会いたかった。今までどこに行ってたんだよ……!」

 男に抱きしめられる。
 色男からの優しい抱擁に、頭が真っ白になった。

「急に消えたと思ったら、こんな風に突然現れやがって……今まで俺がどんな思いで」

「……っ、あの!」

 やっとの思いで声を出す。
 今、目の前の男はとんでもない勘違いをしている気がする。

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