御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで


 初恋の諦め文句といえば『実らない』だ。私は庭に咲く花々を横目にキーボードを叩く。

 月に数回、互いの近状を伝え合うメールも今回が最後になるだろう。

 ーー何故なら私は結婚をする。




「いやぁ、トントン拍子とはこういう事だねぇ」

 ノックもなしに伯父様が書斎へ入ってきた。私の結婚が決まってから出入りが頻繁になり、手土産の洋菓子を掲げると感謝の言葉を引き出そうとする。

「姫ちゃんが好きなケーキを買ってきた。一緒に食べよう、結婚の前祝いだ」

「ありがとうございます。それではお茶を用意しますね」

 一旦パソコンを閉じ、ソファーを勧めた。ここは父の仕事場も兼ね、希少な書籍が多く所蔵されている。室内での飲食は遠慮して貰いたいのだが強く言えない事情があるのだ。

 内線で厨房と連絡を取り、紅茶を手配する。イギリスから取り寄せた茶葉は淹れ方も重要となり、担当者が前もって準備をしていた。
 今、伯父様の気分を害せば我が家がどれだけ不利益となるのか。私を含め、皆が承知する。

「パソコンを触っていたみたいだが、まさか男に連絡していないだろうね? 先方を心配させる真似はよしてくれよ」

 伯父様の正面へ腰掛け、そんな質問に首を振る。

「幼馴染みのーー峯岸斗真さんへ結婚する旨をお伝えしようと。伯父様の顔に泥を塗る真似は誓ってしておりませんので、どうぞご安心下さい」
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