御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで
「あぁ、分かった。俺も戻るから」

 部屋の外では斗真さんがそう返事をしていた。通話相手を宥める声音から帰国を促されていると察する。

「姫香、すまない。すぐイタリアへ戻らなきゃいけなくなった。色々詰めなきゃいけないが、ひとまず身ひとつで付いてきてくれないか? パスポートは実家だよな?」

 ドアを開くと少し早口で伝えてきた。

「斗真さん、私」

「急ぎ過ぎている自覚はある。でも姫香と離れたくない。これからする商談は俺じゃないといけなくて、会社にとってのメリットも大きい。姫香と仕事を秤にかけたくないが、どちらも大切だ」

 抱き締められ、父の事を言い出せなくなる。
 むしろ仕事と秤へかけられるのが光栄だ。事情を話して斗真さんの心の天秤を私へ傾けたいとは思えない。

「イタリアへは斗真さんが先に行き、私は後から向かうっていうのは駄目かな?」

「何故そんなに焦らす? 言ったよな? 姫香を一時も離したくない。やっと叶った初恋を置いてイタリアへ帰れないよ」

 父が倒れたと知っているが、詳しい病状は知らないのだろう。浅田さんの件はともかく、彼が私の家を不躾に詮索するはずないから。
 ここで父の容態が急変したと告げれば、斗真さんは大切と言っていた商談を放棄しかねない。

 ーーピンポーン、インターフォンが響く。

 きっと、わたしを迎えに来た運転手が鳴らした。

「私、イタリアへは行けない」

「え? 姫香?」

「ごめんなさい、付いていけないの」

 斗真さんを剥がし、首を横に振る。
< 30 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop