御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

斗真side



 姫香が立ち去った後、暫し動けなかった。彼女の身に何が起こったのか、さっぱり理解できない。ただ今にも泣き出しそうなのを無理やり引き戻せず、結果、見送る他なかったのだ。

「はい」

 震え続ける携帯を耳に当てる。

「お忙しい中、度々申し訳ありません。確認ですが婚約者をお連れになるのですよね? パーティーなどは如何しますか? せっかくですし皆様にお披露目しては?」

「……あぁ、その話だが無しにしてくれ」

「と、おっしゃりますと? こちらへお出で頂けないのでしょうか?」

 長年、秘書として側に置いている男は露骨に不満げな声を上げた。溜息に続き、小言が続くのを察知して先手を打つ。

「俺だって訳が分からないんだ。俺も姫香を紹介したかったさ」

「目に入れても痛くない程のお姫様でしたよね? 私に仕事を押し付けて帰国したというのに何をやってるんですか?」

「そう言うなよ」

「言うに決まってます。あなたはこれまで姫香さん一筋、どんな好条件の縁談も断ってしまいました。あなた程の立場の方がいつまでもパートナー不在とはいきませんよ?」

 毎度、毎度同じ話をされ、通話を切りたくなる。
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