御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで

御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで2



 病室に着くと父は私をみ、器具を装着した腕を上げた。幸い処置が早かった事から最悪の事態を免れたと聞き、ひとまず安心。こうして集中治療室に入った父とガラス越しの対面である。
 二ヶ月あまりベッドに伏せた身体は遠目でより細く小さく映った。

「お父様は常々、姫香さんのウェディングドレス姿を見るまでは病に負ける訳にはいかないと言っていますよ。ご本人の意識がはっきりしており、治療にも前向きです。後は薬の効果が現れ発作が治まればいいのですが……」

 担当のお医者様が私の肩をポンポンと叩き、白衣を翻した。名医と呼ばれる彼は沢山の患者を抱えつおり、渡り鳥のように次の病室へ。

 先日行った手術は成功。後は回復を待つばかりの状態らしいものの、今回のような発作を度々起こす。
 父は治療方針を担当医と二人で決め、私を介入させたがらない。必ず社会復帰をするからと言って、詳しい病状を教えてくれないのだ。

 父にしてみれば私に心配を掛けたくない配慮でも、病名を知ろうと知らまいと私が出来るのは心配をするくらいで。役に立たない娘で申し訳なくなる。

「姫香お嬢様、こちらへ」

 側のソファーを促すのは父の秘書。崩れるよう座り込むと温かい紅茶を差し出してくれた。

「伊豆へいらしていたと伺いました。浅田氏と?」

「……えぇ。父には?」

「お伝えしてません。先程、先生も仰ってましたが、お父様は貴女の幸せな結婚を楽しみにしています。浅井氏と政略結婚をすると知れば良くなるものもならないでしょう」
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