御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで
 ーーと言えど、父不在の会社が何時まで保つのか。私にだって想像は難しくない。しかも誰に断りもしないで婚約破棄し、それを父を長く支えてくれた人達へ話さねばならなかった。

 病院特有の清潔な臭いと真っ白い空間に身勝手な私が浮いている。斗真さんに好きだと言われ喜びのあまり地に足をつけた判断をせず、結果的に誰も彼も傷付けたのだ。

 その中でも斗真さんの顔が過り、優しい笑顔や紳士な振る舞いを想う。イタリアへ行かないと告げた時、彼は本当に辛そうだった。

「お嬢様、顔色が優れないようですが? 大丈夫ですか?」

「えぇ、平気です。それより皆さんにお話しなければいけない事があります。ここではお伝えしにくいので、一旦外へ出ませんか?」

 横目で父を見ると、まだこちらの様子を見守っていた。私は必死に笑顔を貼り付け、また来るねと手を振る。

 父は再婚をしないで男手ひとつで私を育ててくれた。会社だけじゃなく思い出の自宅をも手放す事となれば、今尚愛する母との思い出は根こそぎ無くなってしまう。

 父を悲しませたくないのに。注がれた愛情を少しでも返したいのに。

「姫ちゃん!」

 廊下に出ると伯父様が物凄い勢いで私へ近付いて来た。有無を言わさず乱暴に私の手を掴むと秘書を始め家人が呆気にとられる。
 
伯父様の怒りに心当たりしかないわたしは、そのまま伯父様の車へ乗せられてしまった。
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